「まちだで好きを続ける」|町田市シティプロモーションサイト

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まちだではたらく

町田を拠点に
オンリーワンの物語を世界へ!
映像制作と起業の舞台裏ストーリー

更新日:2025.06.12

Tokyo New Cinema代表取締役・プロデューサー
青山学院大学総合文化政策学部非常勤講師
木ノ内 輝さん

“資金ゼロ・経験ゼロ・人脈ゼロ”から映像制作をスタートし、世界的な映画祭やPR映像で数々の受賞を果たしたTokyo New Cinemaの代表取締役、木ノ内輝さん。ハーバード大学研究室在籍中にプロデューサーを務めた『Calling』で、ボストン国際映画祭最優秀撮影賞を受賞。帰国後、製作の総指揮を務めた『愛の小さな歴史』『走れ、絶望に追いつかれない速さで』『オルジャスの白い馬』が東京国際映画祭に連続入選し、『四月の永い夢』ではモスクワ国際映画祭の国際映画批評家連盟賞を獲得。ボストンからモスクワまで、世界を魅了してきました。

『四月の永い夢』が「モスクワ国際映画祭で受賞した国際映画批評家連盟賞は、過去に黒澤明監督が同映画祭で受賞したこともあり、日本でも大きく報道されました。『やがて海へと届く』では、岸井ゆきのさんや浜辺美波さんといった注目度の高い役者さんたちと作り上げた作品で、これもまたひとつの通過点だったと思っています」(木ノ内さん)

北海道生まれの木ノ内さんは、幼少期を町田で過ごし渡米。米国バージニア州にあるワシントン&リー大学で芸術学と生物学を学び、ハーバード大学の研究室で再生医学のイメージングに関する研究に取り組んでいたという経歴の持ち主です。学生時代からの友人とボストンで受賞したことをきっかけに「日本の文化をより世界に広げたい」との思いを抱き、帰国後、町田市で制作会社『Tokyo New Cinema』を設立しました。

「もともとは映画からスタートした会社ですが、現在は世界で評価されたオンリーワンの物語を生み出す力を武器に、行政や企業のPR映像制作にも取り組んでいます。小田原市の観光映像は観光映像大賞にも選ばれ、『いきものがかり』の書き下ろし楽曲『誰か』のオリジナルムービーや、ジブリパークのメディアなども手がけました。映画の技術とノウハウを社会に幅広く提供しています」

               
『静かな雨』は、宮下奈都の同名小説を原作とし、仲野太賀さんと元乃木坂46の衛藤美彩さんがダブル主演を務めています。第41回モスクワ国際映画祭に特別招待作品として出品された『わたしは光をにぎっている』は、松本穂香さん主演。両作品の監督は『四月の永い夢』で注目を集めた中川龍太郎監督。

交通の便がいい町田は
映像制作の拠点にぴったり

映画や映像コンテンツの制作会社といえば、都心に拠点を構えることが多い印象ですが、町田を選んだのにはどんな理由が?

「立ち上げ当初は渋谷や六本木で事務所を探しましたが、なかなかピンとくる場所が見つかりませんでした。そんな中、一緒に起業した友人たちが町田の近くに住んでいたこと、私自身も町田にゆかりがあったことから、町田を候補地にしました。そのとき、たまたま見つけたのが、中町にある創業支援施設『町田新産業創造センター』です。何よりセキュリティがしっかりしていて、創業サポートも手厚かった。ここで10年近くお世話になり、まるで育ててもらったような感覚があります。現在は中町を卒業し、金森に事務所兼倉庫を構えています」

町田に映像制作の拠点を置いたメリットとして、木ノ内さんが挙げたのは、立地のよさです。

「映像制作やPRの仕事は人材が東京に集中しているため、東京で起業することが重要です。町田は都心から少し離れているものの、電車の路線も多く、交通の便がいい。決め手は東名高速道路のインターチェンジが近く、撮影機材の運搬など車での移動がしやすい点です。各地へのアクセスも良好で、都心にあるクライアントにもスムーズに行けるため、町田は非常に便利な拠点ですね」

住まいも町田市内にある木ノ内さんにとって、職場が近いことも大きなメリットだと感じているそう。休日はお子さんと公園に出かけたり、グランベリーパークでショッピングや食事を楽しんだりしています。

起業の背中を押したのは、
「成功するまで失敗しろ」という言葉

ボストンで賞をとった頃から起業に興味を持っていたものの、不安定な道を歩むことに迷いもあったと振り返る木ノ内さん。その転機となったのが、ハーバード大学で研究者をしていた当時、研究者同士の交流会の中で聞いた、世界的な起業家の講演でした。そのとき胸に響いたのが、「100回失敗しても、その後に成功すればいい。成功するまで失敗しろ」という言葉だったそうです。

その言葉に背中を押された木ノ内さんですが、学生時代に映画で受賞したとはいえ、起業の経験はもちろん、資金や人脈もゼロ。そこで、映画制作の資金調達のため日本でクラウドファンディングを試みました。が、結果は惨敗。

「2014年のことでした。当時はクラウドファンディングが日本に浸透していなかったので、新手の詐欺だと思われたみたいで(笑)。目標に対して、集まったのは半分以下。資金は出資者に返還し、最初のプロジェクトは失敗に終わりました。でも、失ったものは少なくて、傷ついたのは自分のプライドくらいでしたね(笑)」

木ノ内さんはクラウドファンディングでの失敗を次の挑戦に生かしました。クラウドファンディングで成功している日本人にアドバイスをもらい、その反省を踏まえて再チャレンジを決意します。

「最初のクラウドファンディングの文章を自分で英訳し、アメリカのKickstarterという世界最大のプラットフォームで出資者を募りました。その結果、目標を3倍以上超える金額が集まり、こうして公開したのが『Plastic Love Story』(2014年、中川龍太郎監督)という作品です」

それからほぼ毎年、クラウドファンディングで資金調達を成功させ、「現在は青山学院大学でもアントレプレナーシップと映画を教えることに繋がった」と木ノ内さんは笑顔で語ります。

「日米で連続的にクラウドファンディングで資金調達に成功した人間はほかにいなくて、私たちがある意味では先駆けだと思います。今でも鮮明に思い出すのは『成功するまで失敗しろ』というあの言葉。失敗がどれほど大切なものだったか、あらためて実感しています」

映像コンテンツに興味があるなら
映画の歴史を知ってほしい

「町田の魅力は、コスパが非常に優れている点です。衣食住に苦労することもありません。町田のキャッチフレーズに言葉を入れるなら、居場所としても働くのも便利で暮らしやすさをシンプルに表現する『居職住』です。『居職住で、いいことふくらむまちだ』ですね」

と語ってくれました。そして、町田で夢を実現した先輩として、映像産業に興味のある中高校生や大学生に向けて、こんなメッセージも!

「SNSのインフルエンサーやTVなどは一見華やかに見えますが、実際には非常に競争が激しい分野です。コンテンツ産業に入るなら、何か一つに頼るのではなく、自分の強みを活かしつつ、さまざまなことにチャレンジすることが大事です。映像に関わる仕事をしたいという人たちには、映像産業の原点である良い映画を見て、文脈を理解することが重要です。例えば、フランスのジャン=リュック・ゴダール監督や日本の小津安二郎の映画など、普段あまり触れないような古典的な映画に意識的に触れることが大切です。学生のうちに、少し難しいと感じる映画にチャレンジしてみてください」

木ノ内さんが渡米した当初、アメリカで娯楽といえば、週末の映画鑑賞という時代。当時、英語を話せなかった木ノ内さんは、図書館でDVDを借り、映画を通じて英語を学んだそうです。影響を受けた作品は『レオン』『ラストエンペラー』など。

コンテンツ産業や映像産業は、もともと映画から始まったと言っても過言ではありません。映画は、スクリーンに映し出される物語を楽しむもので、そこからテレビ番組やYouTube、TikTokなど、現在のさまざまな映像コンテンツが生まれました。

「そのため、映像産業がどのように発展してきたのかの文脈を理解したうえで、今どんな映像が作られているのかを知っておくことはとても大切。映画の歴史を知ることで、今の映像文化やコンテンツ制作がどのように進化してきたのかを理解できます。これから映像に関わる仕事をしたいと思っている人は、原点である映画のことを学んでおくと役に立つでしょう」

Profile
        北海道生まれ、町田育ち。株式会社Tokyo New Cinema代表取締役でプロデューサーとしても活動。ハーバード大学研究室在籍中に制作した映画がボストン国際映画祭で受賞。その後、Tokyo New Cinemaを設立し、米国と日本で資金調達に成功。東京国際映画祭入選(14、15、19年)、モスクワ国際映画祭(17、19、24、25年)で受賞(17年)を果たす。青山学院大学総合文化政策学部の非常勤講師としても活躍中。2025年春からは横浜国立大学で経営学の博士号取得を目指している。
Information
新作映画『LEONIDAS』
今年4月にモスクワ国際映画祭で公開した新作映画『LEONIDAS』。若者の出会いと別れを描いた物語ですが、実は現状の世界に対するメタファーを含む映画になっております。巨大な権力に対する若者のスタンスを、敢えてあっけなくすることで自分なりのメッセージを込めました。この作品を日本の実力のある若手監督とスタッフ・役者と制作し、世界で発表できたことには大きな意味を持つと思います。なお、ロケ地として町田も作品内で多く使用しました。今後の国内公開もご期待ください。(木ノ内さん)

モスクワ国際映画祭、現地上映の様子。左は橘潤樹監督
撮影/上樂博之 取材・文/小山まゆみ
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