崖っぷちの笑いと4コマ修行の果てに
赤塚賞入選・漫画家おぎぬまXさん
更新日:2025.05.01

漫画家おぎぬまX さん
町田で育ち、現在も小田急線沿線に暮らすおぎぬまXさんは、芸人としての挫折を経験し、4コマ漫画の修行を重ねた末に「赤塚賞入選」という大きな成果をつかんだ異色の漫画家です。「友情・努力・勝利」に心を奪われた少年は令和の今、悔しさを創作の原動力に変え、面白さを追い求めながら、ますます創作活動に力を注いでいます。

小田急電鉄小田原線「小田急相模原駅」北口から徒歩10分。線路と平行して走る県道沿いを少し入ったところに「おぎぬまXプロ」があります。おぎぬまさんは2019年からここで制作活動を行いながら生活をしています。
「実家は玉川学園と鶴川の間くらいにあります。大学を卒業してから一度、「よみうりランド前駅」のあたりに住んでいました。やっぱり小田急線沿いが良いんですよね。その後、漫画家になって本当は町田に住みたかったんですけど、なかなかいい物件が見つからなくて……。昔ながらのタバコ屋さんとか、コインランドリーの跡地とか、居抜き物件を探していました」
「現在の住居はもともと飲食店だった場所。住んでみたら、思った以上にしっくりきました。実は周りに外国の方が多くて、夜になると『ハッピーバースデー・トゥー・ユー♪』みたいな歌が聞こえてくるんです(笑)。毎日パーティーしているんですよ」

おぎぬまさんが漫画家を志したきっかけとして『キン肉マン』の影響があると言います。ただ、その当時(2000年代)は泥臭い作風とは真逆の、オシャレだったりクールなマンガが人気で、キン肉マンにあるような「友情・努力・勝利」といった価値観が少し古いとされる風潮もありました。
「キン肉マンは、ツッコミどころもあるけど、そういう王道を真正面から描いていて、とても熱かったんです。子どもの頃にあの作品と出会えたことが、自分にとって大きかったですね。ゆでたまご先生に憧れて、先生と同じように高校生デビューをめざし、描き始めました」
デビューするためには出版社に作品を持ち込んで評価されなければなりません。おぎぬまさんは必死に作品をつくり、何度も持ち込んだそうです。
「当時の私は持ち込みのルールもよく知らず、Gペンじゃなくボールペンで描いてしまったり、15ページのところ18ページ作ってしまったり…。内容も『地球が滅亡して子どもがプレステ2をやっている』みたいな、よくわからない話で(笑)。でも、大学4年生までずっと持ち込みを続けました。大体3か月に1回くらいのペースで、トータル50回以上は確実に持ち込みました」

ところが大学4年生になっても結果は出ません。そんなとき、大学の同期に「お笑いをやってみないか」と誘われます。役者志望の彼も夢の実現が思うようにいかず、お笑いに転向するつもりだと。
「漫画は絵がうまくないと伝わりにくい。でもお笑いなら、動きや表情で面白さを表現できる。自分に合っているかもしれないと思ったんです。大学卒業して養成所に入り、本格的に芸人としての道を歩み始めました。最初は彼とコンビでやっていましたが、あまりにも面白くなくて、「今すぐ解散しろ!」って(笑)。途中からピン芸人になりました。とにかくライブ三昧で、R-1グランプリにも挑戦しました。でも4年間出場して、毎回1回戦敗退でした(笑)」
そこでおぎぬまさんは改めて漫画家をめざす決意をします。26歳のときでした。
「『お笑い芸人にもなれない』って、さすがにショックで(笑)。だったら、『漫画家になるかどうか、ちゃんと区切りをつけよう』と思ったんです。高校、大学時代はただ夢を追ってる感覚でしたけど、そのときは『これで最後にする』という覚悟があったのでモチベーションは全然違いました。『絶対に賞を取る』と期限を決めて本気で取り組んだんです」

そこから力を入れたのが4コマ漫画でした。4コマ漫画についておぎぬまさんは「漫画の基本」と言います。「4コマで最強になる!」と本気になりいろいろなことを試したそうです。
「山ごもりしたり、断食したりです(笑)。『4泊5日で100本描くまで下山しない!』って決めて描き続けたり、ビジネスホテルに6日間泊まって、水だけ飲む生活で100本描いたこともあります。富士の樹海でも100本描いたことがあります。山に入ったりすると 情報が完全に遮断されるので、自分だけの発想が生まれるんです。風や石や闇を見ながらネタを考えるようになって、トレンドに流されない4コマが描けるようになりました。他の人と同じことをやっていてもダメだよな、と実感しました」

そして、この「修行」を経て、おぎぬまさんは本当の戦いへ向かいます。
「『次は、赤塚賞で決着をつけよう』と決めました。赤塚賞はギャグ漫画家の登竜門と言われていて、高校生の頃から応募をしていました。もちろんそう簡単に入賞できるものではありません。でも、4コマを2,000本以上描いて、それなりに自信を持つことができるようになりました。応募した『だるまさんがころんだ時空伝』はその2,000本を15ページに凝縮したものでもあります」
2019年12月、「だるまさんがころんだ時空伝」は第91回赤塚賞で入選しました。赤塚賞入選は、実に29年ぶりという快挙で、かなり話題になりました。
「結果を聞いて『やっぱりな』と思いました。『まさか取れるなんて!』じゃなくて、『これが取れなかったら、世の中のほうが間違っている!』っていう気持ちだったんですよ。それくらい自信がありました」


31歳での受賞。おぎぬまさんはスピーチで「ようやく漫画家として戦える舞台に立つことができた」と話しました。賞金は200万円で、その資金でおぎぬまさんは「自分の城」を構えます。
「ギャグ漫画家がオートロックのマンションに住むなんてありえないと思っていましたので(笑)。それでこの「にぎやか」な住まいに落ち着きました。気兼ねなく作品を描ける空間があるのは、本当に贅沢なことです。受賞ができて連載を持つこともできました。「100巻続けるぞ」と思っていましたが2巻で終わりました(笑)」

一方、おぎぬまさんは「小説家」の顔も持っています。どのようなきっかけで小説を書くようになったのでしょうか。
「探偵ギャグ漫画を描いていたときですね。それまでミステリーにあまり触れてこなかったんですが、連載中、参考になればといろいろ読んだところ、『ミステリーってめちゃくちゃ面白いな!』ってハマっていったんです。 一番は、『読者との真剣勝負ができること』ですね。ミステリーなら時空を超えて、100年後の読者とも勝負できるんですよ」
今後についておぎぬまさんは小説と漫画とどちらかに絞るのではなく、「面白いこと」を追求したいと言います。
「もし20代前半で順当に賞を取って、スムーズな人生を送っていたら、こんなにひねくれてなかったと思います(笑)。でも、なかなか認めてもらえない時間が長かったからこそ、『世界が認めないなら、俺が認めさせてやる!』という気持ちが育っていったんです。それが創作の原動力になっています」

故郷である町田についておぎぬまさんは「町田駅周辺の密集感」が魅力といいます。 ちょっとしたテーマパークみたいな感じで、歩ける距離に全部そろっているところが良いそうです。そんなおぎぬまさんが考える町田のキャッチフレーズは?
「コーヒー飲んで!歩いて!いいことふくらむまちだ!とても居心地の良いところです」
PROFILE
@oginuma_x代表作:
【漫画】『笑うネメシス』(漫画アクション)※原作のみ、『謎尾解美の爆裂推理!!』(ジャンプSQ.)1.2巻
【小説】『地下芸人』(集英社文庫)、『キン肉マン 四次元殺法殺人』『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』(JUMP jBOOKS)、『爆ぜる怪人 殺人鬼はご当地ヒーロー』(宝島社)