この街の物語を描きたい。
漫画家・丸顔めめが描く
「いろんな色の街」、町田
更新日:2025.11.06
漫画家丸顔めめさん
多くの人が行き交う町田の駅前。この見慣れた風景を、創作の舞台に選んだ漫画家がいます。漫画家・丸顔めめさん。丸顔さんが描く人気漫画『スーパーベイビー』(芳文社)は、町田を舞台に、不器用で愛おしい日々を紡ぐラブコメディです。
SNSで「共感の嵐」を巻き起こし、瞬く間に話題となった本作。単行本は累計113万部を突破し、多くの読者の心を掴んでいます。熊本出身のギャル・玉緒(たまお)と、本好きで地味な青年・楽丸(らくまる)。「町田」という舞台で二人が恋に落ち、育んでいく日常を、優しい眼差しで描きます。なぜ、丸顔さんは町田を描くのでしょうか。創作の原点と、この街との深い縁を紐解きます。

幼い頃から『カードキャプターさくら』などの少女漫画を読み、「可愛い女の子が描きたい」と願っていた丸顔さん。中学生時代には、グラフィックデザインの世界に魅了され、多摩美術大学へ進学。ただ、そこで、大きな壁にぶつかりました。
「大学でデザインを学ぶうちに、自分が作るより見る方が好きだと気づいてしまったんです。同級生たちがデザイナーとして就職していく中、自分は就活も失敗して…」
「挫折」と語る経験を経て、一度は全く別の道へ。ウェブ系の企業に就職しますが、転機は思わぬ形で訪れます。「美大出身だから」と、上司からイラスト制作を任される機会が増え、創作意欲が再燃。同人誌を描き始めると、その才能が出版社の目に留まり、最初に夢見た漫画家への扉が開かれました。

作中にも登場する「宮越屋珈琲 町田店」で
また、一度聞いたら忘れない「丸顔めめ」というペンネームは、ご自身の愛称と「好き」が詰まった、なんともチャーミングな由来でした。
「“めめ”は町田でよく遊んでいた友人がつけてくれたあだ名なんです。私自身が丸顔なのと、好きなキャラクターも丸顔が多かったので、同人活動のサークル名を“丸顔”にしていて。それを商業誌デビューの時に合体させちゃいました」

ここからキャラクターたちの命が吹き込まれていきます
そうはいっても夢だった漫画家への道は、平坦ではありませんでした。特に、物語の設計図となる「ネーム」作りは、常に産みの苦しみを伴うと言います。
「ネームは本当に何度も書き直します。『スーパーベイビー』は一人の人生をより深く描いているので、骨が折れるというか、泣きながら描くこともあります。一人ひとりのキャラクターに人生があって、漫画として切り取るのはその一瞬。漫画の上で嫌なキャラクターに見えても、責任を持って人生を作ってあげたくて、だから精神が摩耗します」
丸顔さんの作品を語る上で欠かせないのが、「ギャル」。1990年代から日本のストリートファッションを席巻した、日焼けした肌に明るい髪、華やかなメイクやファッションを特徴とする若い女性たちのカルチャーです。なぜ、これほどまでにギャルに惹かれるのでしょうか。
「単純に、見た目が大好きなんです。でも、見た目とマインドがセットで初めてギャルだと思っていて。うまく言えないんですが、本能的に惹かれるんです」
ご自身も学生時代は、ギャルのカルチャーに親しんでいたと、少し照れくさそうに明かしてくれました。
「ギャル顔じゃないのでリアルにはなれませんでしたが、普通にルーズソックスも履いてましたし、日焼けしたりもしてました」

こうして町田のリアルな空気が作品に溶け込んでいきます
そんな丸顔さんが物語の舞台に町田を選んだのには、明確な理由がありました。
「生活を描く上で土地がすごく重要だなと思ったんです。そうなると、自分が一番詳しい街が町田だった」
その縁は、記憶もおぼろげな幼少期から始まっていました。
「父の仕事の関係で、幼いころ小田急沿線に住んでいました。ずっと田舎で暮らしていた母にとって、町田は初めての都会だったみたいで。東急のデパート(現:町田東急ツインズ)でベビーカーが借りられたらしく、私がベビーカーで寝たらアフタヌーンティーでお茶をするのが楽しみだった、と聞きました」
幼い頃から慣れ親しんだ街。大学時代には町田で複数のアルバイトを掛け持ちするなどさらに身近な存在となり、生活の一部となっていきました。
「町田は常に変わり続けているところが、なんか生き物みたいだなって。でも地に足がついていて、どんな変化の速度があっても “町田っぽいな”って思うんです。何でもあるし、多様な人がいて、自分が紛れられる。そういうところが町としてすごくありがたくて面白いなって思います」
「今もちょっとした買い物でも町田に来ます。薬局がすごく安いので!あとは、スタバがありすぎるのも(笑)。すごい近くになんであんな集まるのって思いますが、どこも満員なのがすごいです」

作中には、町田の風景が愛情を込めて描かれています。駅前のオブジェ・通称「ぐるぐる」やツインズ横の通路、駅連絡通路のピーターラビットの大時計、はたまた個性的な個人経営店など、知っている人なら思わずニヤリとしてしまうスポットも。中でも、6巻に登場する「町田リス園」は、丸顔さんにとってお気に入りの場所です。
「子どもの時に行って以来でしたが、取材で行ってみたら面白すぎて!リスがアトラクションになっている唯一無二の場所ですよね 。…まあ、大人になって久しぶりに行ったら怖すぎて、2時間ぐらい固まってたんですけど(笑)」

実際の取材に基づき、細部まで丁寧に描き込まれています
また、国際版画美術館は、心を静かに満たしてくれる大切な場所だと語ります。
「ロケーションも素晴らしいし、展示内容もいつもいいんです。もっと注目されてほしいなって思いますね」
お笑いや音楽のライブ、美術館など「生のもの」が好きだという丸顔さん。 特に音楽では、24年来のファンだというポルノグラフィティの楽曲をよく聴かれているそうです。
「スマホで簡単に見られる時代ですが、本物の迫力や衝撃は全く違うなって。両親が小さい頃から展示によく連れて行ってくれた影響も大きいですね」
最近では、そうした趣味に加えて、ご主人の影響で始めた新しい楽しみもあるそうです。
「夫がサウナ好きなので、最近はかなりサウナに行くようになりました。2年くらい行っていますが、まだ整ったことはないです(笑)」
今後描きたい場所として、Jリーグで躍進するFC町田ゼルビアや、仲見世商店街、ドン・キホーテの名前も挙がりました。町田に対する探究心は、尽きることがありません。

ここから多くの物語が始まります
最後に、これから町田で何かを始めたい方へ、メッセージをもらいました。
「町田って、すごくいいと思います。肩肘張らないのんびりした空気があるのに、すごく便利で。探せば好きなものが絶対なにかある、“おもちゃ箱”みたいな街だから。何かを始めるには一番いいんじゃないかなって」
丸顔さんにとって「いいことふくらむまちだ」とは?
「漫画家視点ですが、いろんな色のインスピレーションで、いいことふくらむまちだ、かな。いろんなものを許してくれるのが町田のいいところだなって思います」
優しさ、希望、葛藤、笑い。さまざまな感情の色を丁寧に拾い集め、物語を紡ぐ丸顔めめさん。彼女のフィルターを通して描かれる町田は、どこにでもある日常が、こんなにも愛おしいものだったと気づかせてくれます。次に町田の駅前を歩くとき、あなたも『スーパーベイビー』の登場人物たちとすれ違うかもしれません。
PROFILE
丸顔めめさん@ogaoxx
代表作
【漫画】
『スーパーベイビー』(芳文社)既刊6巻(2025年10月現在)
『よなよなもしもし』(ふゅーじょんぷろだくと)全1巻
『熟れゆく柔肌』(日本文芸社)全1巻
©丸顔めめ/芳文社