なでしこジャパンで活躍!
夢の舞台をイングランドの名門クラブに移し、
世界の頂点へ挑戦中
更新日:2024.10.31
マンチェスター・シティ 藤野あおば選手
スピードを最大の武器に、初速や加速力、シュート力で観客を魅了する女子サッカー選手、藤野あおばさん。町田市出身で、南大沢フットボールクラブから日テレ・メニーナ・セリアス、十文字高等学校を経て、東京ヴェルディベレーザで活躍。そして現在は、イングランドの名門クラブ、マンチェスター・シティWFCでプレーしています。今回のインタビューは、あおば選手が渡英して1週間あまりのタイミングで実現し、オンラインで行いました。新たな環境での挑戦やサッカーへの思い、そして町田について、あおば選手の生の声をお届けします!
スーパースターに囲まれ切磋琢磨する
あおば選手の新たな挑戦
藤野あおば選手は、中学1年のとき、U-13のJFAエリートプログラムに選ばれ、十文字高等学校在学中に日テレ・東京ヴェルディベレーザに特別指定選手として登録された経歴を持ちます。年代別代表でも活躍し、2021年にWEリーグでデビュー。その実力で瞬く間に注目を集め、2022年10月には日本代表に初召集され、すぐレギュラーに定着しました。さらに、2023年のFIFA女子ワールドカップでは、19歳にして日本人最年少ゴールを達成。なでしこジャパンではウイングからワントップまで幅広いポジションを担い、さらなる飛躍が期待されている選手です。
あおば選手が日本人最年少ゴールの記録を達成したのは、2023年のFIFA女子ワールドカップのグループステージ第2戦、日本対コスタリカ戦でした。スタンドにどよめきを起こしたあおば選手のスーパーゴールは、チームの快勝に大きく貢献。日本はコスタリカに2-0で勝利し、グループリーグ突破を決めました。このときの経験は、あおば選手にとってどのようなものだったのでしょうか。
「A代表として迎える初めての世界大会で、幼い頃から憧れ続けた舞台だったため、素直にうれしかったですし、特別な経験をさせていただけたと思っています。世界大会に挑むうえで、年齢や経験値は大切ですが、やはり勝たなければ意味が薄れてしまうというか……(なでしこジャパンは決勝リーグの準々決勝でスウェーデンと対戦し、1-2で惜敗)。自分がそこにいる意味をプレーで表現しきれなかった部分が大きいので、その後のパリ・オリンピックや、日本代表として迎える世界大会に向けて、すごく大切な経験になったと思います」
あおば選手の世界の舞台への挑戦は、まだ始まったばかりです。FIFA女子ワールドカップから一年後の2024年パリ・オリンピックで、なでしこジャパンは予選リーグをグループ2位で通過。準々決勝では、金メダルを4回獲得しているアメリカと対戦し、延長戦の末、0-1で惜しくも破れました。結果は残念でしたが、グループリーグの対スペイン戦ではあおば選手が先発出場し、フリーキックから直接シュートを決めて先制点を奪う素晴らしい活躍を見せました。
「前年のワールドカップ準々決勝のスウェーデン戦では、フリーキックを蹴らせてもらったのですが、勝つために重要な場面でゴールネットを揺らせなかったことは非常に悔しい経験でした。その悔しさを糧にしてきた中、オリンピックという大舞台で結果を出せたことは、自分にとってポジティブな出来事として心に残っています。試合は逆転負けという結果でしたが、スペイン戦でのシュートはいちばん印象的で、よい思い出となっています」
パリ・オリンピックの開催期間中、マンチェスター・シティWFCは、日テレ・東京ヴェルディベレーザに所属していたあおば選手を完全移籍で獲得したことを発表しました。あおば選手がマンチェスター・シティへの移籍を決めた理由は何だったのでしょうか?
「小さい頃から海外でプレーしたいと考えていて、スペイン、ドイツ、オランダなどのさまざまなヨーロッパリーグを視野に入れていました。言葉の壁を考えると、最初のステップとして英語圏を目指すのがいいと思ったんです。イングランドのスーパーリーグには、フィジカルやスピード感、テクニカルを含むすべてのスキルを、バランスよく高められる環境があります。また、ヴェルディベレーザのビルドアップ(パスやドリブルで相手のプレスをかわしながらチーム全体でボールを保持し、チャンスを創り出す戦術)から積み上げてゴールに迫るスタイルを実現できるのは、マンチェスター・シティWFCだと思ったため、移籍を決断しました」
子どもの頃から憧れていた海外でのプレーを、20歳で実現したあおば選手。実際にプレーしてみると、優れた選手たちの技術を肌で感じ、毎日が新たな挑戦の連続に。
「みんな本当にうまいんですよね(笑)。海外の選手たちはスピード感やパワフルさに加えて、テクニカルな部分が優れています。基礎的なスキルが高いだけでなく、戦術的な理解度も高い。これまで知らなかった素晴らしい選手がたくさんいて、すごいなと感じました。
ポジション争いする選手には、世界的なスーパースターがたくさんいるので、自分の持ち味を活かしつつ、チームの戦術にもしっかりフィットして、出場機会を得られるように頑張ります。出場したからには時間に関係なく結果を出し、何かを示せるように努力していきたいと思っています」
小さい勝負事でも絶対に負けるな!
母からの教え
町田市生まれ、町田市育ちのあおば選手がサッカーを始めたのは、5歳のときです。5つ上のお兄さんがサッカーをしているのを送り迎えで見ていて、その楽しそうな姿に刺激を受けたのだそう。
「最初は幼稚園のクラブみたいなところでちょっとだけサッカーをしていましたが、ちょうどその頃、南大沢に女子サッカーのチームができたので、そこに移って本格的に始めました。同じ年の女の子は、私を含めて3人だけ。あとはみんな年上です。2つ上の姉も一緒に始めたのですが、姉妹で一緒にプレーしているとけんかになることが多く、よくコーチに『外で見てろ』と言われてました(笑)。
小学生の頃は、朝6時半頃に起きて、学校に行く前に父と近くの公園で自主練習をしていました。私が通っていた小学校では、朝休み、中休み、昼休みがあり、休み時間になると校庭で男子と一緒になって夢中でサッカーをしていたんです。女子は私だけで、もちろん男子のほうが強かったのですが、サッカーが好きだったので全然気にせず、楽しんでプレーしていました。1日が終わって家に帰ると、母に言われたのは『小さい勝負事でも絶対に負けるな!』という言葉。遊びでやってるのになあと思ったりもしましたけど(笑)、その言葉は今も心に残っています」
あおば選手にとって、サッカーの最大の魅力は、「ボールひとつで世界中の人とつながれること」。パスをつないでゴールを決めたときには、団体競技ならではの達成感があり、人とのつながりを強く実感するのだそうです。そして、サッカーを通じて得たものや学んだことについて、あおば選手は次のように語ります。
「小さい頃からサッカーを続けてきて思うのは、サッカーをやっていなかったら出会っていなかっただろうという人たちがたくさんいることです。サッカーを通じて得たのは、人とのつながりや技術の向上、自分で努力すること、誰かに助けてもらうこと、です。そうしたことが、サッカーが自分に与えてくれた大切なものだと思います。そして、何よりも、人として成長できたことがいちばん大きいですね。サッカーをしていたら技術を磨くのは当然ですが、同時に人としてどうあるべきか、どう振る舞うべきかを学びました。いろいろな人から教わったり、お手本を見せてもらったりして成長できた部分が、私にとっては最も大きな学びです」
故郷・町田は
マイホームのように落ち着く場所
新天地での生活がスタートしたばかりですが、故郷の町田にはどんな思いがあるのでしょうか。あおば選手にとって、町田はどんなまち?
「住んでいるところが自然豊かなので、私にとって町田はマイホームのように落ち着く場所です。いちばんのお気に入りは、家の近くにある景色がきれいなところ。町田に戻ったら、真っ先に行きたいところは、近くの公園です(笑)。自然が好きなので、そこでゆっくりしたいですね」
あおば選手は、2011年のワールドカップを見て、本格的に日本代表を目指すようになりました。そして、U-13のJFAエリートプログラムに召集されたことで、日本代表への夢が現実に近づいていると感じ、「いつか世界でプレーしたい」という大きな志を抱くようになったそうです。それが実現した今も、「まだ夢みたいです」と笑顔で語ります。そんなあおば選手に、サッカーをしている子どもたちや、応援しているみなさんへのメッセージをお願いすると、夢に向かって果敢に挑み続けるあおば選手らしい言葉があふれてきました。
「やっぱり楽しむことがいちばん大事だと思います。仕事でも自分の好きなことでも、最初にどんな気持ちで始めたのか、どうなりたくて始めたのかを忘れずに持ち続けることが大切だと思います。私もマンチェスターに来て、自分の考えを英語でうまく伝えられなかったり、レベルの高い環境で練習する中で反省することがたくさんあります。それでも、やっぱりサッカーは楽しいんですよね。サッカーを始めたときは、澤穂希さんのようになって、ワールドカップで優勝したいという気持ちがありました。今もその夢に向かって、世界一の選手になるために挑戦しています。挑戦にはミスや失敗がつきものですが、自分自身も頑張っていきたいですし、みなさんも最初の気持ちを大切にしながら取り組んで欲しいと思います」
そして最後に、町田市のロゴマーク「いいことふくらむまちだ」の前に、どんな言葉を入れるかたずねてみると、あおば選手はこう答えてくれました。
「新しい挑戦で、いいことふくらむまちだです!」
PROFILE
2004年、東京都町田市生まれ。5歳からサッカーを始め、南大沢フットボールクラブ、日テレ・メニーナ・セリアス、十文字高等学校、日テレ・東京ヴェルディベレーザを経て、現在、イングランドのマンチェスター・シティWFCに所属。ポジションはMF(ミッドフィルダー)。高校卒業時に2021-22シーズのWEリーグでデビューを飾ると、瞬く間に注目を浴び、2023年FIFAワールドカップでは19歳で日本人史上最年少ゴールを記録。スピードに乗ったドリブルが持ち味で、シュート力も代表トップクラス。取材・文/小山まゆみ