どんな時代になっても銭湯はいい!
昔ながらの雰囲気は今や町田でココだけ。
大蔵湯は今日も♪いい湯だっなぁ~
更新日:2024.06.27
土田大介さん
祖師谷大蔵にあった銭湯で働いていた店主が木曽町に移り昭和41年(1966年)に開業した大蔵湯。現在は「町田唯一の銭湯」として各方面で話題にあがることも多く、SNSでの広がりもあり人気を集めています。話を聞いたのは3代目となる予定の土田大介さん(35)。その文化の継承、「無くさない」ことへの強い思いがあります。
昭和の銭湯のピークに開業
リニューアルで「あれ」は黄色に…
のれんをくぐり、まず驚くのはその清潔感。隅々、細部まで掃除が行き届き、店舗に入った瞬間、リフレッシュした気持ちになります。また、玄関、フロント、脱衣所、浴室と「木目調」で統一されていて、店内は温かみに溢れています。昭和41年の創業ということで今年58年目 。銭湯文化が衰退する中、平成28年(2016年)にリニューアルをし、現在は町田市内で唯一の銭湯として奮闘しています。
「リニューアル前に関してはドラマとか映画で出てくるような『昔ながらのよくある銭湯』でした。 新しくするにあたりコンセプトにしたのは『毎日行ける銭湯だけれど、ちょっと高級な旅館に来たような、ゆっくりできる雰囲気』。レジャー施設とは差別化をはかり、静かにみんながゆっくり入れるような場所を目指しました。当初はジャグジーや露天風呂の案もありましたが、全てやめました。最終的にバージョンアップをしたのが浴室のタイル絵とヒノキを使用した浴槽です」
銭湯と言えばやはり「富士山のタイル絵」。大蔵湯にあった昔ながらのそれは今回「黄色」になりました。なぜ黄色?については「お風呂が木をベースで作られているので、その色に合わせて暖色にして、落ち着くような雰囲気を作りたかった」ということだそうです。一方、 浴槽のヒノキは旅館のイメージがあると言います。
「ヒノキってなるともちろんコストはかかりますし、メンテナンスが大変で銭湯で取り入れるのはちょっと難しいんです。良いものだというのはわかっているんですが、みんなやりたがらない。うちも最初は岩とか、メンテナンスしやすいものにしようと思ったみたいなんですけど。せっかくだったらどこもやってないようなことにチャレンジをしてみようとなりました。でも実際、ヒノキの管理には苦労をしています(笑)。剥げてしまったり、腐ってしまったり…。それを削ったりとか、場所によって1本だけ変えてみたりとか、そうやって常に手を加え維持をしています。 掃除についてもしっかり乾かす時間が必要で。やっぱり大変ですね(笑)」
ただ、その苦労もありリニューアル後の来客は順調に増えています。来店者がインスタグラムなどSNSで 周知をしてくれることも多く、土田さんは「広がり」を感じています。現在は1日平均200人ほどの来店があるそうです。
「リニューアルをしたとき、お風呂で使っている井戸水を軟水化しました。カルシウムやマグネシウムといった硬度成分を低くしています。なかなかわかりにくいかもしれませんが、気がつくお客さんもいらっしゃいます。『やっぱりお風呂のお湯と違うな』って。熱くてもピリピリしないんです。あと、肌に残るような感覚があります。美容の湯とも言われています」
「残していかなきゃ」
インストラクターから転身
大蔵湯は土田さんの祖父太三郎さんが創業しました。現在店主を務めているのは、土田さんの父、太一さん。ただ、実際店舗の運営は土田さんと土田さんの妹がメインだそうです。土田さんの前職はテニスのインストラクター。家族全員テニス好きで、土田さんは学生時代も競技に打ち込み、指導者の道を志すようになりました。
「10年くらい前ですかね。テニスの仕事をしながら、夜にお風呂の掃除を手伝うようになりました。その後、コロナ禍になってテニスの仕事が休業に。その時にちょうど父親が体調を崩してしまいました。『手伝ってほしい』と言われたので、『それなら』ってことでテニスの仕事は辞め、銭湯に専念することにしました」
子どもの頃、友達や周りからは「家が銭湯でいいな」「毎日入れていいな」と言われることが多かったそうです。ただ、実家となるとその良さが「逆にわかりづらかった」とも言います。今は運営を任される立場になり「この良さを残したいな」と強く感じているそうです。
「 全国的に銭湯が少なくなっているという話を聞いて、それを肌で感じた時に『残していかなきゃいけない』という気持ちになりました。特にここはこの近隣の高齢者の方にとってなくてはならない施設であると考えています。話を聞くと、家のお風呂の掃除が面倒で物置き場になってしまっているという方も多いんです。だから毎日来るっていうような人も結構います。 あと、『居場所』としての機能もあると思うんです。高齢の方は家にこもりがちになってしまうこともあるので、ここに出てくればお風呂も入れるし、誰かと話す機会も作れる。そういう目的でちょっと無理をして来てくれる方が少なくありません。 お風呂コミュニティですね」
幼い頃から「ここ」で過ごしたという土田さん。土田さんにとって遊び場のひとつであり、おじいさんと一緒に店番していた記憶もあるそうです。古くからの常連さんは小さい頃から土田さんのことを知っていて、今こうしてお店を継ぐ立場になっていることをとても喜んでくれているよう。それに対し土田さんは「みなさんに可愛がってもらっている」と嬉しそうです。最近は昨年生まれた長男を膝の上に座らせて店番をすることもあるとか。
特別な時間 寄り道感覚で
「町田で生まれ育って、学生の頃は他県で暮らしたこともあったんですけど、基本はずっと町田です。 町田を出て、帰ってきたからこそ気づく部分っていうのも結構あり、やっぱりなんでもあって便利だなっていう。都心部も横浜とかも行きやすい場所なので、住むのには何不自由ない街だと思っています。 私自身、コンクリートジャングルは好きではないので、その点で町田はほどよく田舎感があっていいかなと思います。駅の方に行けば栄えていて、少し離れると山もあったりとか、すごくバランスがいいですね」
小さい頃は両親によく公園に連れて行ってもらっていたという土田さん。子育てするようになって、近隣の公園の多さを実感しているそうです。ただ、「公園以外にも、もう少し子どもを遊ばせることができる施設があったらいいなと思います。レジャー施設の中に子どもが遊べるスペースがあるような」と提案します。
「そう考えると、うちなんかもレジャー施設として使ってもらえたらなとは思っていますね(笑)。やっぱり小さい子にも来てもらいたい。でも、親としては騒がしくて周りに迷惑をかけてしまうという不安もある。確かにうちは『ゆっくり入る』をコンセプトにしているので、気にされるのはわかります。そうは言っても『銭湯は静かに入るところなんだよ』っていうのを、小さい頃から親だったり周りの方だったりに教えてもらうっていうのはすごく大事なことかなと思います」
土田さんによると、小さい頃に銭湯に来たことがある人は大人になっても来てくれるそうです。大人になって初めての人ももちろんいますが、やっぱり昔、親と一緒に来たことを覚えていてまた来るようになって、その人がさらに友達を連れてくるとか。そんな展開も時折あるそう。そういった流れを今後もどんどん作っていきたいと話します。
「銭湯の良さっていうのは、『昔ながら』っていうところがやっぱり1番ですかね。 時代がどんどん変わっていく中で、新しくていいものもどんどん出てくると思うんですけど『昔ながらだからいい』っていうこともすごく大きいと思います。 銭湯文化っていうのは、1日のちょっと特別な時間になるところがその良さです。仕事が終わって少しリフレッシュしたい時、家に帰ってお風呂に入るのではなく、ちょっとこう寄り道をして普段と違う雰囲気を味わうのもその醍醐味だと考えています」
「誰かいる」コミュニティの場に
大蔵湯ができた昭和40年代が「銭湯のピーク」と言われています。その後、家庭の浴室の普及やライフスタイルの変化、あるいは店舗の後継者問題などで減少傾向にあり、今では銭湯が「0軒」の自治体も少なくありません。そのような中、「町田唯一」の銭湯を運営する土田さんにはそこまでの危機感は見られないような気がします。それは自分が幼い頃から触れてきて体に染み付いている銭湯文化への自信からでしょうか。
「この1軒だからこその良さっていうのもあるのかなと思っています。特別感だったり。祖父の代からつながってきているので、せっかく作ったものをなくすっていうのは、もったいないなと。 新しく作るより、無くさないことの方が難しいと思うんです。 私が銭湯をやり始めて思ったことですけど、どんどん今、新しく色々なものができたりとか、昔と変わってきていますし個人の飲食店もどんどんなくなってしまっている。美味しかったのになくなっちゃうのは、跡継ぎがいないとか、いろんな理由があると思いますが、やっぱりあったものがなくなるってすごく寂しいなと感じます。自分もそうですし、皆さんも寂しくなったら嫌だから自分はこの銭湯を残していきます。そのために、1つのコミュニティの場として使ってもらえるのがいいのかなと思っています。『ここに来れば誰かがいる』。そういう場所がいいですね。 今の良さを残しつつ、今後若い方にどんどん子どもを連れてきてもらったり、 1日のちょっとした贅沢の時間と思って、使ってもらえたらいいですね」
大蔵湯
東京都町田市木曽町522042-723-5664
営業時間/14:00~23:00(金曜定休)
駐車場16台あり
HP: http://www.ookurayu.com/
@ookurayutaichi
@ookurayu