ご存じですか?AED
「救える命」伝える若者たち
更新日:2025.05.22

「日本応急手当普及員協議会」代表 芹澤零音さん
もし駅で誰かが倒れていたら、あなたはどうしますか? 駅員を呼ぶ、周囲の人に助けを求める――そうした行動が大切ですが、いざという時に役立つのがAED(自動体外式除細動器)です。とはいえ、まだ十分に知られているとは言えません。そのような中、この課題に向き合いAEDの普及に取り組んでいるのが、町田市を拠点とする「日本応急手当普及員協議会」です。合言葉は「あなたのそばに救える命がある」。代表の芹澤零音さんに、その思いを伺いました。

町田市在住の大学1年生・芹澤零音さん(2025年2月取材時)は学業のかたわら、2022年に立ち上げた「日本応急手当普及員協議会」の代表理事として、心肺蘇生の普及活動に取り組んでいます。依頼があれば全国各地に出向き、AEDの使い方や心肺蘇生法の講習を行っています。
「応急手当普及員は、心肺蘇生の普及を担う資格で、一般の方でも取得できます。各自治体の消防局が認定し、救命講習の指導役として活動します。私たちの団体は、そうした応急手当普及員の活動を支援するために設立しました」
活動も3年目を迎え、メンバーは約70人に。中学生の参加者もおり、若い世代が中心となって取り組む団体として注目を集めています。
「高校生や大学生という立場上、活動の信頼を得る難しさを感じることもありました。しかし、私たちの講習は行政とは異なり、実技を重視し、シナリオ型トレーニングを導入している点が評価されています。例えば、学校の講習では『生徒が倒れた』という状況を再現し、役割を決めて実践的な訓練を行うことで、より実践的なスキルが身につくよう工夫しています」

芹澤さんたちは、特に学校からの依頼を受けることが多く、生徒たちに直接指導する機会も少なくありません。これまでに熊本や石垣島、福島など、さまざまな地域を訪れ、子どもたちにAEDの使い方や心肺蘇生法を教えてきました。最近では週に1回ほどのペースで講習を実施し、年間を通じて多くの講習を行っています。
「活動を続ける中で、若い世代の参加の少なさが大きな課題だと感じています。最大の理由は『認知度の低さ』で、応急手当普及員の制度自体を知らない人が多く、関心を持つ機会が少ないことです。そのため、学校からの依頼はとてもありがたいですね。また、日本人特有の『受け身の姿勢』も影響しているのかもしれません」
「中学・高校のカリキュラムに応急手当は含まれていますが、必修ではなく、実技を学ぶ機会はほとんどありません。この内容が導入されたのも比較的最近のことです。私は心肺蘇生の普及を職業として定着させたいと考えていますが、現状ではほぼボランティアに近い形で活動しています」

応急手当の普及活動は、主に行政が中心となって進められています。そのため、芹澤さんによると、多くの人にとっては「無料で受けられるもの」という認識が定着しているそうです。これは誰もが学ぶ機会を得られるという点では良いことですが、一方で、指導者側には交通費や報酬がほとんどないのが実情です。
そんな中でも、芹澤さんにとって忘れられない出来事がありました。
「以前、都内の高校で講習を受けた生徒が、実際に救命活動に協力したと聞きました。本当に嬉しかったですね。私はどの講習でも、『救命活動で一番大切なのは、勇気を持って行動すること』と伝えています。その言葉を実践し、人命救助に貢献した生徒がいたと知り、改めてこの活動の意味を強く感じました」
「実際の現場では、迷いや不安があるのが当然です。でも、勇気を出して行動しなければ、助かるはずの命を失ってしまうこともあります。だからこそ、いざという時に一歩踏み出せる人を増やしていきたいと思っています」

「誰かの命を助けたい」――そんな気持ちは、多くの人が持っているはず。芹澤さんたちの活動の最終的な目標も、そこにあります。では、若干20歳の芹澤さんが、なぜこれほどまでに強い思いを持って取り組むようになったのか。その原点を聞きました。
「命を意識するきっかけは、小学2年生で消防少年団に入り、初めてAEDに触れたことでした。小さな機械が命を救えることに驚いたのを覚えています。さらに小学4年生のとき、先生から『街中にAEDは多いが、使い方を知らない人が多い』と聞き、疑問を持ちました。実際に先生に尋ねると『触ったこともない』と言われ、それなのに設置されていることに違和感を覚えたことが、今の活動の原点になっています」
また、身近な出来事が命の大切さを強く意識させるきっかけにもなりました。
「面識のあった小学生が交通事故で亡くなったことも、私の意識に影響を与えたと思います。直接的に今の活動につながっているとは言えませんが、『命の重み』を深く考えさせられた出来事でした」
さらに、高校時代には、実際に救命活動を行った経験も。
「道で倒れていた高齢の男性に応急処置をしたことがあります。ただ、そのとき周りにいた人は、何もできずに戸惑っている様子でした。知識はあっても、いざとなると実際に行動を起こすのは難しいのだと痛感しました。だからこそ、そうした状況を変えるために、実践的な講習を広めていきたいと思うようになったんです」

読み込まれており、多くの付箋が貼られている
芹澤さんの人生に欠かせないもののひとつが「剣道」です。救命に必要な勇気も、剣道を通じて身につけたといいます。
「小学1年生で剣道を始め、中学・高校では剣道部に所属し、現在は三段の資格を持っています。救命活動に必要な「勇気」は、剣道の影響が大きいと感じています。年齢を問わず多くの人と関わる中で、礼儀や相手を敬う大切さを学びました。もし剣道をしていなかったら、今のようにさまざまな活動に挑戦する自分はいなかったかもしれません」
現在、芹澤さんは教育学を専攻し、小学校の教員を目指しています。特に「学校の安全をより良くする先生になりたい」と考えているそうです。一方で、「楽しみながら学ぶ」という考え方を、消防の救命講習にも取り入れたいといいます。
「今の救命講習はどうしても堅苦しくなりがちで、受講する側にとってハードルが高くなってしまうことが多いんです。そこで、もっと実践的で親しみやすいものにできないかと、消防庁とも協力しながら新しい形を模索しています」
芹澤さんが特に大切にしているのが、「救命活動における勇気とは、自信があってこそ生まれるもの」という考え方です。
「勇気は単なる『やろう!』という気持ちではなく、経験や知識に裏付けられたものだと思います。適切な学びの場がなければ、いざというときに行動するのは難しいですよね。だからこそ、講習では『楽しく学ぶこと』を大切にしています。救命講習が堅苦しく怖いものだと、『勇気を持とう』と言われても実際に行動にはつながりません。むしろ『自分には無理かも』と感じてしまうことも。だからこそ、敷居を下げ、楽しく学べる環境を作ることで、『救命ってこういうことなんだ!』と前向きに受け止めてもらい、知識が広がっていくことを期待しています」
総務省のデータによると、救急現場でAEDによる電気ショックが実行された割合は約4%とされています。ただし、この数値には「AEDを装着したものの、電気ショックが不要と判断されたケース」は含まれていません。そのため、実際にはもっと多くの場面でAEDが活用されている可能性があります。
「AEDが最もよく使用される場所は駅です。ただ、一番心停止が多く発生しているのは自宅で、その割合は全体の約75〜80%にも及びます。それにもかかわらず、一般家庭にAEDが設置されているケースはほとんどありません。自宅で心停止が起きたとき、どうやってAEDをすぐに使える環境を整えるか――それが、これからの大きな課題だと感じています」

高校時代は町田から府中の学校まで自転車通学をした
芹澤さんに、地元・町田についても聞いてみました。
「町田は、生活に必要なものがすべて揃っているのが魅力ですね。また、市役所と市民の距離が近いと感じます。他の自治体と比べても、市政の動きが身近に感じられるんです。例えば、市長が積極的に子育て政策を進めているなど、市民の声が反映されやすい環境が整っていると思います。実際に私も、市長に『まちだ若者大作戦』という事業を提案し、実現した経験があります」
町田でお気に入りの場所を聞くと、こんな答えが返ってきました。
「芹ヶ谷公園です。特に、公園の線路側のエリアですね。電車の音を聞きながら、手前のベンチに座ってのんびり過ごすのが好きで、子どもの頃からよく訪れています。町田は何でも揃っている街ですが、『映画館がない』というのは多くの人が感じている課題かもしれません。駅前の再開発が進んでいるので、今後の計画に期待したいですね」
芹澤さんの「いいことふくらむまちだ」を教えてください。
「やはり『安心』『安全』ですかね私は町田市消防団に所属していて、地域の防災活動にも携わっています。この時期は火災の発生が増えるため、出動する機会も少なくありません。でも、ここ最近、町田市内では死亡火災が発生していないんです。これは、地域の皆さんが防火意識をしっかり持ち、素早い対応ができている証だと思います。市民一人ひとりの意識の高さと、消防団の活動がしっかり機能していることが、町田の『安心・安全』な環境を支えていると感じています。これからも地域全体で防災の意識を高めながら、より安心して暮らせる町田をつくっていけたらと思います」

芹澤零音
(せりざわれおん)
2005年4月8日生まれ東京消防庁認定応急手当普及員/日本応急手当普及員協議会代表理事
町田消防少年団さるびあ隊元隊長、町田交通少年団指導員、国会超党派若者政策推進議員連盟委員
日本応急手当普及員協議会HP
https://www.jfaic.net/