芹ヶ谷公園の朝6時、
町田から世界へキックオフ
更新日:2026.01.29
サッカー選手池座綾花さん
早朝の芹ヶ谷公園。まだまちが動き出す前の静けさの中、ボールを蹴る音が響きます。チームのなでしこリーグ2部昇格に貢献し、アイルランドの1部リーグでも体を張って戦ってきた、町田出身のサッカー選手・池座綾花さん(27)です。町田でサッカー教室を開くなど、未来の子どもたちに夢のバトンを渡しています。なぜ池座さんは、世界のピッチと町田の公園を行き来しているのか。その予測不能なサッカー人生を覗いてみました。
池座さんのルーツは、町田駅からほど近い「原町田4丁目」。幼い頃は、近所のサウスフロントタワーの遊び場や芹ヶ谷公園で、暗くなるまで走り回る活発な子どもでした。お兄さんの影響でサッカーを始め、地元の「FC芹ヶ谷東京」に入団します。
「小学生の頃はなかなか試合に出られず、お母さんには続けないだろうと思われていたみたいです。でも、私はただボールを蹴るのが楽しくて。周りが進路を決め始める中、自分も『チームを探したい』と頼んだら、お母さんがたくさんの選択肢をくれました。その中で、これが本当に自分のやりたいことなんだと気づくことができたんです」
迷いなくサッカーに打ち込めたのは、一番近くで支え、気づきを与えてくれたお母様の存在があったから。中学からは電車で神奈川県のチームに通い、サッカーの奥深さに魅了されました。「もっと知りたい、うまくなりたい」。その探究心で、なでしこリーグの入れ替え戦や昇格を懸けて戦う選手へ成長しました。そんな当時の仕事は、なんと「自動車教習所の教官」。
「仕事のお昼休みには、教習コースにある坂道発進の坂でダッシュをしたり、壁当てをしたり。仕事が終わった後、夜にはグラウンドへ。フルタイムで働きながら練習する毎日でした」
仕事とサッカーに全力で向き合う日々でしたが、25歳を迎えた時に転機が訪れます。
「ワーキングホリデーの年齢制限が迫っていて、『広い世界を見るなら今しかない!』と引退を決意しました」
長年続けた現役生活に区切りをつけ、海外へ渡ることを決めました。選んだ先はアイルランド。実は中学生の頃からイギリスのバンド『One Direction』の大ファンで、「いつか彼らのいる国の雰囲気を感じたい」という憧れがありました。知人の勧めもあり、自然豊かで、英語を学ぶのに適した隣国・アイルランドへ行くことに。
しかし、サッカーの神様は池座さんを放っておきませんでした。渡航までの数ヶ月間、出身チーム「FC芹ヶ谷東京」で子どもたちの指導を手伝うことに。選手を引退した池座さんを再び引き戻したのは、他ならぬ町田の子どもたちでした。
「芹ヶ谷公園で朝自主練してるよって言うと、子どもたちも来始めたんです。夏休みだけのつもりが、夏休みが終わっても『明日もやろうよ』って。私は強制しなかったんですが、登校前の朝6時に、普段ならお母さんに起こされているような小学生が、サッカーのために自分で起きてやってくる。ただ純粋に、サッカーが好きだという熱意で集まっていました」
朝もやの芹ヶ谷公園で、ボールを追いかける子どもたち。そのひたむきな姿が池座さんの情熱に再び火をつけました。
「ふと、自分はもう選手じゃないのに、なんでこんなに偉そうに指導しているんだろうって思っちゃって。『この子たちが憧れるような大人になりたい』。それが、もう一度サッカーを始めるエネルギーになりました」
そう決意した池座さんは渡航後、持ち前の行動力と現地の人との「つながり」でアイルランドプロリーグの契約を勝ち取るという離れ業をやってのけたのです。エージェントも使わず、語学学習アプリで知り合った友人から人脈をたどり、チームへの練習参加にこぎ着けました。
「一番心に残っているのは、初めて練習に参加した日です。ミスをした私に、チームメイトが『Nice challenge!(いい挑戦だ!)』って声をかけてくれたんです。これまで自分を責めてしまいがちでしたが、挑戦したこと自体を認めてくれて。そのポジティブな空気がうれしくて、ロッカールームで一人、人生初のうれし泣きをしました」
ただもちろん甘い世界ではなく、さらなる人生初の経験も…
「プレーは激しかったです。試合中に相手に蹴られて、スネ当てが欠けたことがあって(笑)。人生初でしたけど、それも含めて戦っている実感がありました」
世界で戦うその姿は、間違いなく芹ヶ谷公園の子どもたちが憧れる「カッコいい選手」そのものです。
アイルランドで過ごす中で、池座さんはあることに気づきます。それは、現地の人々の温かさが「町田の人たちに似ている」ということ。
「まちを歩いていると、知らない人でも『調子はどう?』って気軽に声をかけてくれます。その距離感の近さが、私が育った町田の商店街とそっくり」
アイルランドから帰国した今、改めて感じるのは町田の居心地の良さです。
「私の周りでも、一度は都心に出た友人が、結婚や出産で結局町田に戻ってくるのも、あるあるです。何でも揃うし、商店街を歩けば『綾花ちゃん、帰ってきたの?』ってみんなが声をかけてくれる。世界中どこへ行っても、ここがいつも帰ってくる場所です」
池座さんの「いいことふくらむまちだ」は、「つながり」で。
「アイルランドでの契約も今の活動も、すべて人とのつながりが運んでくれました。何かをしたから返してほしいわけじゃなくて、つながりがきっかけで何かが広がっていくことを大切にしたい」
現在は、サッカースクールで指導にあたるほか、町田で女の子限定のサッカークリニックも開催するなど、自身の経験を地元に還元する活動も行っています。
「根本にあるのは、子どもが好き、町田が好きという想いです。サッカーも英語も、私にとっては手段の一つ。それらを繋ぎ合わせて、子どもたちが『海外に挑戦してみたい』とか『サッカーをやってみたい』とか、新しい一歩を踏み出すきっかけになれたらいいなと思います」
池座さんの次なる「つながり」は、サッカーの聖地・ブラジル。
「知り合いがやっぱりブラジルはいいよって。選手としてガツガツやるというよりは、指導者の視点も含めて、サッカーが習い事じゃなくて文化になっている国の空気を肌で感じてきたいんです」
芹ヶ谷公園から世界へ。池座さんの蹴るボールは、町田とアイルランド、そして地球の裏側・ブラジルまでをも繋いでいきます。