笑顔が集まる場所を目指して。
町田から広がる、幼なじみの挑戦
更新日:2026.08.06
「酒とおばんざい いそいそ」
「食と器 いその食器店」影山 廉さん
小林優樹さん
「人が一番笑顔になる場所って、どこだろう」
そんな問いが、小林さんの人生を大きく変えました。JR町田駅ターミナル口から徒歩2〜3分、「酒とおばんざい いそいそ」と「食と器 いその食器店」を営む小林優樹さんと影山 廉さんは、小学校時代からの幼なじみ。それぞれ異なる道を歩んできた二人は、その経験を生かし、町田で新たな歩みを続けています。
高校卒業後、小林さんは東京消防庁へ入職し、約4年半、消防士として勤務しました。転機となったのは、消防士としてさまざまな現場を経験する中で抱いた思いでした。
小林さん「消防士時代には、人の人生の最期に立ち会う現場を経験することもありました。そんな時期に、定年退職した祖父が生きがいを失ってしまった。その姿を見て、命を助けることももちろん大切だけど、そうなる前の衣食住で、人と関わりたいと思うようになったんです。大人の笑顔が生まれる場所ってどこだろうと考えたとき、当時の勤務地だった三軒茶屋の居酒屋で楽しそうに過ごす人たちの姿を見て、食に関わりたいと思うようになりました」
定年退職そのものにも疑問を感じていたと話す小林さん。20歳から60歳までの40年間と、60歳から100歳までの40年間は等しくないな、と違和感を抱いたことも転身を考えるようになったきっかけのひとつだったといいます。
一方の影山さんは、大学院修了後、香料会社へ就職しました。クラフトビールとの出会いが、その後の進路を大きく変えたといいます。
影山さん「農学部では食や微生物に興味があって学んでいました。成人して初めてクラフトビールを飲んで、そこでハマったんです。ビールって香りがすごく大事なので、お酒の香りをつくりたいと思って香料会社に入りました。待遇は良かったのですが、自分のやりたいことはできなかった。4年くらいもがいた末に、『自分で自由にやりたい』と思って退職し、岐阜や愛知、長野などで修業を重ねました」
その後、小林さんは消防士を退職し、居酒屋へ転職。名古屋の系列店で経験を積んでいた頃、影山さんは岐阜県のブルワリーでクラフトビールづくりに携わっていました。
小林さん「名古屋と岐阜は車でも1時間くらいの距離だったんです。あるとき廉(影山さん)が働いている山奥のブルワリーのクラフトビールを飲んだら、すごくおいしいなと思って。彼はビールを造りたい。僕は居酒屋をやりたい。1年くらい事業計画を練って、『酒とおばんざい いそいそ』を開業したという流れです」
「深掘る人」と「広げる人」。
異なる強みが足し算ではなく、かけ算に
こうして、小林さんと影山さんは、もう一人の創業メンバー、浅利真紀さんと3人で、2023年9月『酒とおばんざい いそいそ』を開業しました。その約2年後となる2025年12月には、2店舗目となる『食と器 いその食器店』をオープン。二人が二つの店を構える場所として選んだのが町田です。
小林さん「二人とも地元ですし、都心でやりたいとは思わなかったんです。僕も彼も自然が好きなので、都心に行けば自然から遠ざかるじゃないですか。それに、将来は愛川町の山奥に醸造所をつくる予定なので、そこへの行き来もしやすい。それで町田に決めました」
『食と器 いその食器店』では、ビストロ営業に加え、食器の販売にも取り組んでいます。共同経営について尋ねると、小林さんはまず、お互いの違いについて語ります。
小林さん「廉がひたすら深掘る人なので、分子レベルで物事を考えたいと言うんです。僕は『分子レベルでは考えられないよ』って(笑)。でも、僕はおもしろさを広げたい人なので、深掘る人と、広げる人っていう立ち位置ではあるかなと思っています」
その違いは、それぞれが担う役割にも表れています。
小林さん「僕は居酒屋出身なので、全体のメニュー構成や内装を担当しています。廉は調香師。香料会社や日本酒、焼酎、ビール、ワインとか、ものづくりの出身です。ドリンクづくりは彼が担っていて、香りや素材を生かした抽出ドリンクなど、オリジナリティの高いものが多いですね」
一方、影山さんは、お互いの役割をこう表現します。
影山さん「得意分野がそれぞれあって、小林は飲食全般や人と接することが得意です。逆に僕は数字の管理やパッケージづくり、ものづくりが得意なので、足し算より掛け算になるかなと思っています」
「作り手から提供まで」。二人が目指すもの
飲食店の運営は、二人にとってゴールではありません。その先に見据えているのが、自分たちでクラフトビールを醸造し、製造から提供までを一貫して手がけることです。
小林さん「『酒とおばんざい いそいそ』では3種類、『食と器 いその食器店』では4種類のクラフトビールを提供しています。現在は全国のブルワリーさんから仕入れたビールを提供していますが、醸造免許の取得など準備が整い次第、自社ビールへ切り替えていく予定です。2027年夏頃には、自社での醸造を始められたらと思っています」
影山さん「ビールも、香りが大事です。クラフトビールはとくに大事。そこにこだわったものを作りたいと思っています。その先は、蒸留酒やリキュール、ノンアルコールにも挑戦していきたいですね」
将来的には、自社で醸造したクラフトビールを、『酒とおばんざい いそいそ』や『食と器 いその食器店』で提供するだけでなく、外部への販売も視野に入れています。
小林さん「会社名は『curaとさかずき』です。テーマは『作り手から提供まで』。お酒だけじゃなく、自分たちで育てた野菜や食育なども含めて、作るところから提供するところまで、自分たちでつないでいけたらと思っています」
旬の味覚を少しずつ味わえる、彩り豊かな一皿です。
人が集まり、つながりが生まれるまち
町田で店を営むようになった今、お二人はこのまちの魅力をどう捉えているのでしょうか。
小林さん「20代の頃は、町田って若い人が集まるまちだと思っていました。でも実際に店を始めてみると、地域の人も、神奈川県内などいろいろな場所から来る人もいて、本当に幅広い年代の方が集まるんですよね。都心には若い世代が集まるまちもありますが、町田は年齢があまり関係ない。だから、長く商売をしたり、ファンをつくったりするにはすごくいいまちだと思っています」
影山さん「やっぱり、いろいろなエリアから人が来てくれるのはありますね。横浜線と小田急線が通っているので、横浜や八王子、神奈川県内、それに世田谷あたりからも来てくださいます。いろいろな地域の人が集まるのは、町田のいいところだと思っています」
店を営みながら暮らす中で、二人は町田ならではの魅力を実感しています。
小林さん「町田は飲食店が多いので、はしご酒も楽しめますし、いい店がたくさんあります。実際に住んで店を開くと、飲食店の知り合いも増えて、『都心まで行かなくても町田で十分楽しめる』と感じるようになりました。ここが地元でよかったなと、働くようになってあらためて思っています」
影山さん「リス園や野津田公園など、あのエリア一帯の自然豊かなところが好きです。自然もあるし、駅前はにぎわっているし、そのバランスが町田の魅力だと思っています。買い物も町田でほとんど済みますし、一つのまちの中で生活が完結する。ここで働いていると、いろいろなことに挑戦しやすい環境だなと感じます」
最後に、町田市のキャッチフレーズ「いいことふくらむまちだ」に添えたい言葉を、お二人伺いました。
小林さん「『はしご酒で いいことふくらむまちだ』です。お店同士もお客様もつながっていく。そんな楽しみ方がもっと広がってほしいと思っています」
影山さん「自分たちで店を始めたことで、近くに住む人たちが従業員として働きに来てくれるようになり、地域とのつながりも広がりました。その意味を込めて、『人とのつながりで いいことふくらむまちだ』です」
人物撮影/上樂博之 取材・文/小山まゆみ