テントサウナで温かなまちづくり。
コミュニティ育み、キャラバンは進む!
更新日:2025.06.05

彌一勲さん
町田の自然を活かしたテントサウナイベントを市内各所で開催し、みんなで健康になるとともに、サウナで心が「ととのう」ことで他者を許容できる風土を持ったまちの実現を目指す――。町田市で2021年度、「まちだテントサウナキャラバンプロジェクト」という事業が展開されました。仕掛けたのは「サウナ―」である彌一勲(ひさしかずひろ)さん。下小山田町にある介護施設の施設長を務める傍ら、2022年度以降も、継続的にキャラバンを進めています。
テントサウナは、持ち運びができるテント型のサウナのこと。耐熱性のある生地で作られたテントの中に薪ストーブを設置し、熱を発生させる仕組みになっています。自分だけのプライベート空間でサウナを楽しめるのが魅力で、キャンプやアウトドア好きの間で人気を集めています。
「僕たちのテントサウナキャラバンは、いわゆる『サウナ事業』ではなく、地域活動なんです。一般的な温浴施設のサウナは清潔な環境を整えて、リラックスするための場所ですよね。でも、キャラバンの目的はまったく違って、地域を盛り上げたり、人と人とをつなげたりすることです。そもそもキャラバンを始めるきっかけになったのは、町田市役所が主催していた『まちだをつなげる30人』というワークショップでした。町田の課題解決に関心のある人たちが集まる場で、その中でプレゼン大会があったんです」
彌さんは福祉の仕事に携わっており、ワークショップには「認知症の啓発活動につなげたい」という思いで参加しました。「認知症になっても誰もが暮らしやすい街づくり」をテーマに、どんな環境や支援が必要なのかを考えていたそうです。ところが、ワークショップでさまざまな人と話していくうちに、新たな気づきがありました。
「いろんな人と話していると、『近年は誰かが良かれと思ってやったことに対して、否定的な声が上がることが増えてきたよね』という話題が出たんです。例えば、音楽イベントを開くと『うるさい』とクレームが入ったり、公園ではキャッチボールができなくなったり。昔に比べて、そういうことが増えている気がします。『他の人を受け入れづらくなっていないか?』という疑問が浮かんできました」

そんな話を聞いているうちに、ふと頭に浮かんだのが、当時からハマっていたサウナでした。彌さんは、コロナ禍で閉塞感が続き、気分が沈みがちだったときに、知人からサウナをすすめられ、それ以来、日常的に利用するようになったそうです。そこからの流れで、テントサウナと出会いました。
「『どうすれば、もっと優しい気持ちになれるんだろう?』と考えたときに、『そうだ、サウナだ!』とひらめいたんです。サウナに入ると、悩んでいたことがどうでもよくなって、『まあ、もうちょっと肩の力を抜いていこうか』という気持ちになれる。じゃあ、サウナを通じて、もっとお互いを受け入れやすいまちを作れないか? そんな話になったんです。そうして、市の『まちだをつなげる30人』のプログラムで採択され、『まちだテントサウナキャラバンプロジェクト』として実施されることになりました(2021年度)」
彌さんによると、キャラバンにはいくつかの目的があります。まず、健康面。サウナには健康寿命を延ばす効果があるといわれており例えば、アルツハイマー型認知症の発症リスクが20〜65%減るとか、脳血管性疾患の発症率が12~60%減るといったエビデンスもあるそうです。
「でも、それはあくまで目的のひとつ。キャラバンの大きな目的は、やっぱり地域の活性化です。町田の中心部、たとえば町田駅前や薬師池公園には注目が集まりますが、その一方で、小山田や相原といった郊外エリアはあまり注目されていません。でも、町田の魅力って、都会の便利さと豊かな自然が共存しているところだと思うんです。キャラバンで町のいろいろな場所を巡りながらサウナを楽しんでもらうことで、地域の魅力を改めて感じてもらえたらうれしいですね」


テントサウナの1回の滞在時間は7〜8分ほど。自然と「終わり」が見えているのも、気軽に楽しめるポイントだといいます。そのため、意外と参加しやすく、「一緒に汗を流すだけで会話が弾む」のも魅力のひとつです。キャラバンが始まってから約3年。これまでに6カ所で開催し、定着しつつある場所も出てきました。
「下小山田町の大谷里山農園、小野路のヨリドコ小野路宿、小山ヶ丘の光明寺小山ヶ丘、町田駅前のマルイではサウナイベントを実施しました。ほかにも、市民プールや公園、古民家で体験会を開いたこともあります。やってみて良かったなと思うのは、やっぱり“良い雰囲気”が生まれること。参加者みんなで作り出す温かい空気感が、すごく心地よかったんです。普通の温浴施設のサウナは、じっと耐えて、水風呂に入って、外気浴をして…と、一人で静かに楽しむスタイルですよね。でも、テントサウナはみんなで焚き火を囲むような雰囲気なんです。そういう交流の場ができるのが、本当に良かったですね」
改めてテントサウナの魅力について、彌さんは「仲間ができること」だと話します。30代も中盤から後半になってくると、会社や家族以外のつながりを持つのが難しくなりがち。新しく友達を作る機会も減り、ボランティア活動に参加しようと思っても、忙しくてなかなか時間が取れない。そんな中で、家族でもなく、職場でもない「第3の居場所(サードプレイス)」として、同じ年代や趣味を持つ人たちと集まり、ワイワイ楽しめる場があるのは、本当に貴重だといいます。
「実はこれは、僕自身が『ゴール』として考えていたことでもあるんです。テントサウナを通じて、コミュニティを生み出すこと。それが、一番の魅力だと感じています。ただ、テントサウナはまだ新しいジャンルなので、いろいろな制約があって、自由に開催できるわけではありません。でも、僕は『町田の課題を解決したい』『地域を盛り上げるコミュニティを作りたい』という目的でやっているので、それでいいと思っています。とはいえ、長期的に考えたときに、この仕組みをどう発展させていくかは、これからの課題ですね」

彌さんは、普段は社会福祉法人嘉祥会(かしょうかい)が運営する高齢者施設の施設長を務めています。具体的には、人材採用や育成、法令遵守、経営全般、営業・広報、さらには現場の業務まで幅広く担当し、ケアマネージャーとしての仕事も行っています。
「嘉祥会は、地域での活動に力を入れている法人です。キーワードは『地域の中で安心して暮らす』。介護保険のサービスとしてはデイサービスを運営していて、例えば週に2〜3回、朝10時から夕方4時まで、高齢の方が通うという形をとっています。でも、人は365日24時間生活しているわけで、『デイサービスの時間だけで本当に安心して暮らせるのか?』という疑問が出てきますよね。そこで、嘉祥会では地域活動を通じて、高齢者がより安心して暮らせる環境づくりにも取り組んでいるんです」
仕事もサウナも、根底にあるのは同じこと。彌さんが大切にしているのは、「誰もが住みやすいまち」「誰もが受け入れ合えるまち」をつくることです。
「そのためには、コミュニティを生み出すことが必要だと思っています。例えば、30代・40代の人たちが横のつながりを持ったり、事業を通じて関わることで、自然と地域の輪が広がっていきますよね。しかも、その人たちは町田市で本業を持っていることが多い。だからこそ、自分の仕事で学んだことを地域に持ち帰ってまちづくりに活かしたり、広い視野で働くことができれば、結果的に町田の未来にもつながっていく。結局、すべては根底でつながっているんです。違うのは、アプローチの仕方だけなんですよね」
そんな彌さんは町田のキャッチフレーズとして「人の繋がりでいいことふくらむまちだ」と話してくれました。
「町田で自分の興味があるイベントや仕事に顔を出していく中で色々な人達と出会い、対話をしていくことで、これまでなかった『暮らしの中の”あったらいいな”』を創造し、継続的な活動ができました。人と人が繋がる事で様々な可能性が生まれます。町田市には42万人の人が住んでいるので、人と人の掛け算の力を想像するとワクワクします。日々の生活の安心があってこそ生活の中で余白が生まれ、余白があると自分の幸せや他者の幸せを願う事ができます。町田市がこれからも安心して暮らせるまちであってほしいと思っています」