読書の秋に
町田の書店巡りはいかが
更新日:2024.10.24
地域文化を支える
4つの魅力的な「本屋」を紹介
全国的に書店の数が減少しており、1件も書店が存在しない市町村の割合は4分の1に達しているとされています。この背景には、読書離れやスマートフォンの普及による生活習慣の変化が関係しています。多くの地域で書店が生き残るのは難しくなっていると言われます。そのような中、町田市内には元気な書店がまだまだあります。今回は市民におなじみの店からチェーン店、古書店、そして新しいスタイル(無人販売)の店舗と4つの「本屋」を紹介します。これらの書店は単なる本を買う場所ではなく、地域の文化と人々のつながりを大切にしています。それぞれの店舗が提供する独自の魅力をぜひ体験してみてください。店主らがおすすめする「秋の3冊」も紹介いたします。
久美堂/地域に根差す書店の新たな挑戦
町田を代表する書店「久美堂」。創業79年、社長の井之上健浩さんは「町田市を『本の町』として発展させ、地域全体で読書文化を育みたい」と力を込めます。「久美堂は、町田市で地元に根ざした書店として、三世代にわたって運営してきました。その始まりは、1945年、私の祖母が始めた貸本屋です。当時は戦後の混乱期で、満州から帰還する祖父を待ちながら、祖母が一人で貸本業を営んでいました。そして、終戦からわずか4か月後の12月に町田で貸本業の店舗を開き、そこから少しずつ家族経営の書店へと成長していきました」
1951年(昭和26年)には、書店として本格的な運営を開始し、町田市内で地元に根付いた書店として知られるようになりました。長い年月をかけて、祖父母から父へ、そして現社長である3代目の井之上健浩さんへと引き継がれ、今では町田市内に4店舗、神奈川県内に2店舗、合計6店舗を展開しています。創業当初から「人を大切にする」という理念を掲げ、地域の読書文化を支える大切な存在として発展してきました。この地域に密着した姿勢は今でも変わらず、町田市とその周辺で愛され続けています。
「全国的に書店が減少している中でも、久美堂は地域の文化的な拠点として、大きな役割を果たしていると感じています。『久美堂で育った』という市民の方にお会いするととても嬉しく思います。私たちは、ただ本を売るだけの場所ではなく、地域のコミュニティの一部として存在してきました。書店は、読書文化を育み、地域の皆さんにとって知識や情報を得る大切な場所です。単なる商業施設ではなく、地域文化を支え続ける重要な存在でありたいと思っています」
現在、井之上社長は、厳しい状況に直面している書店業界の打開策として、図書館との連携に力を入れています。2年前から町田市の図書館運営を始めた久美堂では、本町田店で図書館の本の返却、受け渡しサービスを行っています。それにより図書館利用者が書店にも足を運ぶようになり、相乗効果が生まれているそうです。
「私としては、町田市を『本の町』として発展させていきたいと考えています。町全体で読書人口を増やし、書店や図書館が地域にしっかり根付くような街づくりを進めていくことが目標です。町田が『本の町』として広く知られるようになれば、地域全体の教育水準の向上にもつながり、ひいては地域全体の活性化にも貢献できると信じています」
書店と図書館が連携することで、地域社会における「本の町」の実現に向けた大きな一歩を踏み出しています。久美堂は、その先駆けとなり、地域に密着した活動を続けながら、書店業界全体にも新たな道を示していく存在です。町田市が「本の町」として成長することで、全国のモデルケースとなることが期待されています。
ノーサイド・ゲーム
「ラグビーがテーマで、私自身がラグビーをプレーしていた経験から外せません(笑)。スポーツの熱意や楽しさが伝わる内容です」
和菓子のアン
「私自身、和菓子好きなもので…。読んでいると和菓子が食べたくなる、温かみのあるライトな読み物です。日常の小さな幸せを感じさせる本として、手軽に読めるものとしておすすめです」
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
「読書離れの進む中で、本を読むことの価値を再認識してもらいたいです。今の時代、仕事に追われたり、スマホやSNSに時間を取られて、本を読む時間がなくなってしまうというのはよくある話です。でも、本を読むことで得られる知識や経験は非常に大きいものですし、無駄と思える情報の中にも、人間としての成長につながる部分があります」
TSUTAYA 町田木曽店/進化する町田の文化拠点
あのレンタルショップはリニューアルを経て、「本」に力を入れるように。地域の需要に応え進化するTSUTAYA 町田木曽店の舛田勇也さんと菊地将玄さんに話を聞きました。
町田市の中心部に位置するレンタルショップ「TSUTAYA 町田木曽店」は、地域密着型の経営を続けながら、その時代に合わせて進化してきました。2003年の開業以来、CDやDVDのレンタルサービスを提供しながらも、特に「本」という文化的な側面を大切にしてきた店舗です。
「もともとレンタルビデオと本の販売を主軸にした店舗として20年以上前に開業しました。町田市においては当時、レンタルビデオ店の需要が高く、書籍はその一環として取り扱われていました。しかし、時代の流れとともに、レンタルビデオ市場は縮小。一方で本の販売に徐々に力を入れていくことになりました」
特に、「地域の書店」として、町田市に住む人々に向けた品揃えを意識するようになったと言います。また、2018年に行われたリニューアルでは、本の品揃えを強化するだけでなく、文房具や雑貨、さらに地域のアーティストやクリエイターの作品も取り扱うことで、町田市内で独自の文化的な役割を担う店舗へと進化しました。
「リニューアル後、特に力を入れたのが『町田コーナー』です。このコーナーでは、町田市にゆかりのある作家やアーティストの作品を展示・販売しています。地元の皆さんが、自分たちの地域に関連した書籍や作品を気軽に購入できる場所として、すごく人気が出ています。このコーナーを通じて、町田の文化や芸術を少しでも支えることができれば、本当に嬉しいですね」
町田市のプロサッカークラブ「FC町田ゼルビア」とのコラボレーションも、店舗に新しい風を吹き込みました。ゼルビア関連の書籍やグッズが販売されており、地元ファンにとっては欠かせないコーナーとなっています。
「ゼルビアファンの方が足を運び、関連書籍やグッズを購入してくれるのは本当に嬉しいことです。試合で使用された垂れ幕が店内に展示されたこともあり、ファンの集いの場としても機能しています。新しいユニフォームが発表されるタイミングや、シーズンの切り替わりの際には、皆さんが新しいグッズや書籍を探しに来てくれます」
今後、店舗はさらに本の品揃えを充実させ、地域に密着した書店としての役割を強化していく予定です。その一方、コスメや雑貨など、若い世代にもアピールできる商品を増やしていく意向だそうです。
「本を中心とした文化を軸にしながらも、幅広い年齢層やニーズに対応できるような店づくりを目指しています。町田のコミュニティにとって欠かせない存在であり続けたいですね」
ハロウィン ゴーゴー!
「町田市在住の絵本作家・イラストレーター中垣ゆたかさんによる絵本です。数ある中でもこの時期に読んでもらいたいものと言えばこの一冊です」
勝つ、ではなく、負けない。
「町田ゼルビアの黒田監督が書かれたビジネス書です。サッカーファンだけでなく、ビジネスで成果を出すことに悩んでいるリーダーにも参考になる内容で、幅広い読者が楽しめる一冊です」
中先代の乱
「北条時行を主人公としたアニメ『逃げ上手の若君』に関連する書籍です。鎌倉時代の終末期を描いた作品で、町田にゆかりのある歴史的な戦い「井の沢古戦場」も登場します」
書店Eureka/本が紡ぐ自由な対話の場
町田駅近くの仲見世商店街の奥にたたずむディープな古書店「Eureka(ユリイカ)」。店主の近藤映斗さんは「本を通じて世代や背景を超えた人々が繋がる自由なディスカッションの場をめざしたい」と話します。
近藤さんはもともと、フリーランスでデザインやイラストの仕事をしていました。しかし、身体を壊しそれまでを振り返ったとき、「自分は本を売りたいんだ」と悟ったそうです。
「30代前半に体調を崩して、その時にリサイクルや古物に興味を持ち始めました。家には大量の本があったので、それを商材にしてやってみようと思ったんです。最初は古物を売るイベントに出店していました。ただ、『いつか実店舗でやってみたいな』という考えはずっとあり、2年くらいかけて場所探しをしました。そんなとき、仲見世商店街で飲食店をやっている知り合いから『ちょっと変わった物件があるけどどう?』という話がありました」
「実際に見に行きました。で、まずここは賃貸料が安かったんです。他の場所は『渋谷並み』に高いと言われていたんですが、ここだけが例外的に安かった。それが大きな決め手ですね。あと、古いバラックのような建物で、戦後の闇市時代の名残りもあったんです。天井も低くて、かなり古い状態でした。確かに『変わった物件』でしたがその点も気に入りました」
店舗は2018年にオープンしました。近藤さんはオープンにあたっての改装工事をひとりでやりきったそうです。天井を上げて、断熱材を入れて、YouTubeを見るなどして約1か月かけて、誰の力も借りずに完成させました。
「『30年間、小さくても同じことを続けたい』という願望があります。『世界の車窓から』みたいな(笑)。持論ですが『10年以上同じものが好きだと、それは本当に自分にとって大切なもの』って思うんです。私は古本が好きで、それに対する情熱は20年、25年以上続いています。古本自体が好きですが、古本屋も大好きで、古本屋のない街には住めないと感じるくらいです」
そんなユリイカにはどのような本が揃っているのでしょうか。
「基本的には、マイナーな本を集めています。大手の書店や大型古書店で買えるような本を扱っても仕方がないですからね。私自身はアート系の本が好きだったんですが、気が付くとまわりからはサブカル系の書店として認識されるようになっていました。昔のヴィレヴァン(ヴィレッジヴァンガード)のような雰囲気が感じられるかもしれませんね」
近藤さんは古本屋について『本を買うだけの場所ではなく、思想や文化が交流する場所』と言います。店主との距離が近く、そこで本を通してディスカッションが生まれる。昔の古本屋では、そういう空間が当たり前だったと…。
「ネットや掲示板では感じられない、リアルな場所での会話や交流が、古本屋にはあるんです。ユリイカでも、若い人や年配の人が集まって、勝手にディスカッションを始めることがよくあります。私はあまり介入せずに、自由に議論できる場を提供しています。そういう場所は、今でも必要だと感じています。若い世代と会って会話する機会が少ない中で、ユリイカを通じて様々な世代やバックグラウンドを持つ人々が繋がれる場所にしたいです」
ひょうひょう
「ユリイカでは、同じ本で一番売れた!」
ねすがたはいけん
「本多さんは町田で一番のイラストレーターだと思っています」
わたしの心の街にはおこるちゃんがいる
「町田は障がい者支援の施設が多いと思います。読んだらきっと役に立つ」
kuromoji books/誰でも手に取れる温かな本棚を
山崎団地商店街の中にあるノンアルコールドリンクを提供するスペース「0号室」。その一角で古書を販売しているのが「kuromoji books(クロモジ)」。店主の高野美智恵さんは「誰でも手に取りやすい店作りを目指しています」と語っています。
団地内で駄菓子屋でありシェアスペースでもある「ぐりーんハウス」で本を置いたことがその始まり。その後、0号室で、本と作家さんに焦点を当てた内容で、小さな本棚を置いてみると、予想以上に多くの方が足を止めてくれ、高野さんは「(このような場所でも)じっくり本を見ていただけるんだな」と実感。それから定期的に「開店」するようになりました。
「ぐりーんハウスで、イベントをやらせてもらいました。2021年12月のことですね。その時、色々な方から『昔、この商店街には本屋さんがあったんだけど、今はもうないのが寂しいね』と言う声を聞くようになりました。『じゃあ、本を置く場所として続けていきたい』と思うようになりました。その後、0号室のオーナーさんに声をかけてもらい、フクロウの貯金箱を置いての無人販売の形で小さな古本屋を運営させてもらっています」
本好きの高野さんは福岡にいたころ古本のフリマ「一箱古本市」に参加していました。町田に越してきてからは、あの町田を代表する古書店「高原書店」でアルバイトをしていたこともあるそうです。
「高原書店は残念ながら閉店してしまったのですが、そこで古書を通じた経験が今の活動にもつながっています。クロモジでは、古本を中心に取り扱っていますが、0号室に置く本は、『状態の良い本』を選んでいます。それは普段、古本屋に行かない人でも手に取ってもらいたいからです。古い本は味があって、それが好きな方も多いのですが、普段本に慣れていない方だと、そういった本に抵抗を感じることがあると思うので、できるだけ手に取りやすい本を提供したいと思っています。そして飲み物を片手に気軽に読書を楽しんでいただけたら嬉しく思います」
店頭に並ぶ本は高野さんが所有していたものや高野さんが勤める福祉事業所で取り扱っているものなど。ちなみにかつて高野さんの家には「ひと部屋丸ごと本で埋まる」ほどの量があったそう。引っ越してからはスペースが限られてしまったので、「今後のためを思って現在はあまり増やさないようにしています」とのこと
「私が目指しているのは、ただ本を売る場所ではなく、本を通じて人々がつながる場所を作ることです。本がきっかけで知らない人同士が深い話をすることができる、そんな場所をこれから提供していきたいと思っています」
死ぬまで生きる日記
「著者がカウンセリングを通じて、自分の内面と向き合う過程を描いたものです。正直な感情が綴られていて、何度も読み返したくなる本です」
へろへろ
「福岡の老人介護施設のドキュメンタリー。今働いている事業所も障がいがある人がいるので、近いものを感じます。鹿子裕文さんの文、読みやすいです」
母という呪縛 娘という牢獄
「ある少女が母親を殺してしまった事件について書かれています。彼女がどんなに頑張っても逃げられなかったという悲惨な状況が描かれていますが、同時に支援の大切さを考えさせられる内容でもあります」
町田の本屋巡りで、本との新たな出会いや地域の魅力を再発見してみませんか。それぞれの店舗が人々をつなぎ、文化を育む場としての役割を果たしています。この秋、本屋を訪れる時間が心に豊かさをもたらしてくれるはずです。