「まちだで好きを続ける」|町田市シティプロモーションサイト

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まちだでくらす

町田から広がる希望の輪
多様性が尊重される未来をめざし

更新日:2025.01.08

医師 吉田絵理子さん

     

2018年にバイセクシュアルかつXジェンダーであることをカミングアウトし、性の多様性について医療従事者に知ってもらうための活動を本格的に始めた内科医の吉田絵理子さん。医療現場に同性のパートナーをもつ人や、トランスジェンダーの人が受診することが想定されていないことで、病院やクリニックに受診する際に困っているとの声が多くあったのです。しかし当時は、医師向けに書かれた性の多様性について学ぶための日本語の教材はほとんどなく、吉田さんは英語の文献を頼りに知識を深め、試行錯誤の中で何を伝えるべきかを模索してきました。2021年に医師の仲間4人と一緒に一般社団法人にじいろドクターズを立ち上げ、2022年には医療従事者に向けた書籍を出版し、医療現場での課題を体系的に示し、2024年に出版した新書では具体的な解決策に踏み込む内容を展開。町田市への移住を機に地域社会との交流を深め、多様性を尊重する社会の実現を目指す吉田さんの取り組みは、多くの人に勇気を与えています。

インタビューに応じる吉田さん

川崎市にある川崎協同病院に勤務する一方、医療者を中心としたコミュニティ「一般社団法人にじいろドクターズ」の理事も務める吉田さん。そんな吉田さんがLGBTQに関する活動を始めたのは2018年のこと。それまでは、自分のセクシュアリティを公にすることに大きな不安を抱えていました。日本ではまだLGBTQに対する理解が十分に進んでいるとは言えず、特に医療現場ではその存在が想定されていないと感じられるような状況でした。

「例えば、大変心苦しいことですが、トランスジェンダーの方が救急車を呼んだ際に、医療機関側がトランスジェンダーの方を診察することに慣れていないという理由で受け入れを断ってしまい搬送先がなかなか決まらなかったという事例が実際にあります。活動を始めた当初は日本語での情報がほとんどなかったので、英語の文献を手がかりに学びを進めるしかありませんでした。しかし、北米などで実践されていることを、そのまま日本の医療の文脈に持ち込むのがいい方法なのかも分からず、手探りでとても孤独な作業でした。一人で声を上げることはとても怖かったのですが、少しずつ同じことを志す仲間に出会うことができ、活動を始める勇気を持てるようになりましたし、今は多くの人とディスカッションしながら進めることができています。セミナーや講演などを積み重ねていくことで、学ぶことの重要性を感じてくださる医療者がとても増えてきました。このような活動を始めることは、私にとって大きな挑戦でしたが、結果的に多くの人々とのつながりを築くことができ、いろいろな方との対話が原動力となっています」

2022年に出版された本『医療者のためのLGBTQ講座』(南山堂)は、吉田さんが初めて編集に携わったLGBTQに関する書籍です。この本で、医療現場におけるLGBTQに関する課題を示すことができましたが、具体的な解決策までは示すことができませんでした。

「当時は、医療者が知るべきことや、医療現場において課題があることを伝える必要があると強く感じていました。その一方で、例えば電子カルテの性別に関する記載や通称名の記載をどうしたらいいのかといった具体的な方法については、まだ手探りの状態でした。この書籍は、医師だけではなく、支援者や弁護士、研究者といった様々な分野の第一線で活躍されている方たちにも執筆いただき完成しました。そして2024年、新しい書籍『LGBTQ+ 医療現場での実践Q&A』(日本看護協会出版会)を出版することができました」

左が2022年に出版した最初の書籍。右が最新作となる2024年の書籍

この新しい本は専門家と当事者が共同で執筆し、医療現場で実際に直面する課題を解決するための実践的な内容が盛り込まれています。例えば、診察の際に患者の性別に関する情報をどのように取り扱うべきか、また、入院時に同性のパートナーをキーパーソンとして扱ってもいいのかといった、具体的な内容がQ&A方式でまとめられています。

「この書籍の特徴は、当事者の視点と専門家の視点を両方示している点です。これにより、医療者が実際に対応する際の参考となるだけでなく、当事者がどのようなことを感じているかを具体的に知ることができます。ここ数年のうちに、医療従事者が性の多様性について学ぶ必要があるということは広く認識されるようになり、LGBTQについて学びたいという声が増えてきました。その一方で、政策面では進展が遅く、同性同士は日本ではまだ法的な結婚ができないとった課題が依然として残っています」

インタビューにはパートナーの杏奈さん(右)も同席した

4年前からパートナーの杏奈さんと暮らす吉田さんは、町田市が2023年に開始した「町田市パートナーシップ制度」に申請をしました。町田市ではこれまで13組のカップルが申請をしています(2024年11月30日時点)。

「東京都でもパートナーシップ証明書を取得しました。その際は、完全にデジタル対応で証明書はPDFで送られてきました。申請はスムーズに進みましたが、顔を合わせることがないため、どこか事務的で温かみのない印象を受けました。それに対して、町田市では対面での対応が行われ、職員の方々が「おめでとうございます」と声をかけてくださいました。結婚したら、おめでとうと言われるのは当たり前だと感じていらっしゃる方が多いと思います。でも、杏奈や私は、若い頃には自分のセクシュアリティはひた隠しにしていて、同性のパートナーとの関係性が公に認められて、おめでとうと言ってもらえるような未来を想像したこともありませんでした。そんなこともあり、「おめでとう」と言われた時に杏奈が泣き始めて、それにつられて私も泣いてしまい、さらには職員の方々も一緒に涙を流してくださり、とても温かい時間でした。ただ、カミングアウトしていなかったり、パートナーとの関係性を周りに伝えていない場合には、対面で届け出が必要ということにハードルを感じる方もいらっしゃるかもしれません。町田市では個室での対応もしてくださるとのことです」

以前は大田区で杏奈さんと一緒に住んでいたという吉田さん。保護犬を飼い始めたことで散歩がしやすい環境を求め3年前、杏奈さんの生まれ育った町田市への引っ越しを決めました。町田市は緑が豊かで、犬の散歩に理想的な場所が多くあり大変気に入っているようです。

「ただ、残念なことに家の近くに新しくできた公園が突如「犬の立ち入り禁止」になってしまったのです。その際に、犬を飼っていた近隣住民の皆さんが、自治体や市の職員の方との話し合いを重ねてくださり、最終的にルールが見直されました。このことをきっかけに、近所の方たちとの交流が増え、私達がカップルであることもカミングアウトできました。大田区では得られなかった顔の見える交流ができ、とても安心して生活しています。また、定期的に市内で収穫された無農薬野菜を配達してもらっていて、どれも美味しく、そこでも町田の自然環境の素晴らしさを実感しています」

取材場所となった町田市男女平等推進センター(原町田)は2人がパートナーシップを申請した場所でもある。当時の様子を再現する2人

町田市で杏奈さんと保護犬との生活を営みつつ、書籍を出版したり講演に登壇したり、精力的に活動をする吉田さん。ただ今現在も医療現場では、トランスジェンダーの方が受診を断られるケースが依然としてあったり、入院時にキーパーソンとして同性パートナーを認めない病院も少なくないなど道のりは険しくもあります。

「私も医師として、自分がよく知らないことに対応しなければいけないときは不安を感じます。いま起こってしまっている差別的な対応や不適切な対応は、医療従事者に性の多様性について知っていただくことで防ぐことができると考えています。どんなセクシュアリティの方でも安心して受診できる環境を整えていくには、知識を伝え、具体的な対応方法を一緒に考えていくことが必要です」

そして今後については「LGBTQの活動を通じて、多様性を尊重しあうことのできる社会を作ることが目標」と話します。

「そのためには、地域社会での対話の場を増やし、すべての人が安心して暮らせる環境を作っていくことが大切だと感じています。また、医療現場での対応を改善するだけでなく、地域全体が多様性を尊重し合う風土を育てていきたいです。個人的な夢としては、地域の中で交流を深められる場を作ることです。例えば、小さな宿泊施設を運営し、多様な人々が集まって対話を通じて互いを理解し合えるような場所を作りたいと考えています」

町田市では、まちだの「ひと×まち」のエネルギーが成長し、未来への可能性や期待感がどんどん膨らんでいく様子を、ロゴマーク「いいことふくらむまちだ」で表現しています。吉田さんは何を通して「いいことふくらむまちだ」を感じていますか?

「『対話を通じていいことふくらむまちだ』というイメージです。私は、多様性に関する取り組みを進めています。それは、お互いを知り、理解し合うことです。異なる価値観であっても、対話を通じて共通のものを見つけられることがありますし、対話を通してお互いが変化しあうこともできると感じています。価値観の対立があっても、そこで諦めるのではなく、対話を続けていくことが大切です。対話は、道端でいきなり始まるものではありません。それを可能にする「場」が必要です。その場は、町田市という地域かもしれませんし、もっと小さな街の単位かもしれません。そうした場で対話を重ねることで、みんなが住みやすい街が広がっていくのではないでしょうか。そして、その結果、私たち一人ひとりも安心して暮らせる社会が築かれると信じています」

取材を終えた吉田さん(左)と杏奈さん
PROFILE
◆所属:川崎医療生活協同組合川崎協同病院総合診療科科長、一般社団法人にじいろドクターズ理事
◆活動内容:川崎市で医師として病院に勤務。2018年にバイセクシュルかつXジェンダーであることを公表し、主に医療関係者を対象にLGBTQの人々のケアに関する講演活動やワークショップ等を行っている。また東京慈恵会医科大学で社会人大学院生として、日本におけるLGBTに関する医学教育の実態調査を行い、博士号を取得した。
◆書籍:医療者のためのLGBTQ講座(吉田絵理子総編集、2022年、南山堂)、LGBTQ+医療現場での実践Q&A(武田裕子、吉田絵理子、宮田瑠珂編著、2024年、日本看護協会出版会)
information
  ◆2025年2月1日(土)、2日(日)第25回まちだ男女平等フェスティバル開催
町田市内でLGBTに関する活動に取り組む団体も参加!
https://www.city.machida.tokyo.jp/kurashi/community/danjo/festival/festival25.html

◆男女平等推進センターだより第24号を発行!(2025年1月9日)
今号ではパートナーシップ宣誓者の声をご紹介しています
https://www.city.machida.tokyo.jp/kurashi/community/danjo/byododayori/index.html
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