本と人をつなぐ
新しい居場所が鶴川に!
図書コミュニティ施設
『つるぼん』の挑戦
更新日:2025.10.02

つるかわ図書コミュニティ施設 つるぼん館長 金城美由紀さん
町田市鶴川の鶴川団地内に、2025年5月、地域の人々が集う新しい拠点が誕生しました。つるかわ図書コミュニティ施設『つるぼん』です。ここは単なる図書施設ではなく、本を介して人と人がつながり、誰もが安心して過ごせる居場所です。
「私自身、これまで本にとても助けられてきました。落ち込んだときも、孤独を感じたときも、本を開くことで心を支えてもらいました。いつか自分も本で人を勇気づけることができたら……。そんな思いが、『つるぼん』を立ち上げた原点につながっています」
館長の金城美由紀さんは、そう語ります。

2023年、町田市立鶴川図書館の再編のために、市が開いた意見交換会には、高齢者施設、障害者支援、不登校支援、認知症ケアなど、多様な分野の関係者が参加しました。
「私はその場に、本に関わる人という立場で参加させていただきました。『つるぼん』とは別に、私は以前から『きんじょの本棚』という個人的な活動を続けていて、まちのあちこちに小さな本棚を置き、誰でも自由に本を持ち寄ったり借りたりできる仕組みをつくってきました。おそらくそうした経験から、意見交換会に参加できたのだと思っています」
『きんじょの本棚』は、借りた人と直接会わなくても、本を介して人と人がつながっていることを感じられる温かさが特徴で、見えないつながりを楽しむ部分がありました。
「一方、『つるぼん』には“決まった場所”があります。ここに来れば誰かに会える、ここに来れば必ず本がある。本を介していろんな人と出会える。その場があるというのは、本当に大きな違いだと思っています」
行政と民間がタッグを組む
全国初の“つるぼんモデル”誕生!
『つるぼん』の大きな特徴は、行政の支援を受けながら民間団体が主体的に運営している点にあります。
「市立図書館が閉館したあと、民間が独自に立ち上げて運営する例は全国にあります。でも行政と民間が力をあわせて取り組んでいるのは、全国でもここだけだと聞いています」
運営の責任は重くなります。けれどもその一方で、既存の枠にとらわれない柔軟なチャレンジが可能になりました。
「メリットは、小さい単位でいろいろなことに挑戦できることだと思っています。『つるぼん』は図書館ではなく、図書コミュニティ施設です。図書館には図書館としての大切な役割がありますが、ここには、“図書館ではない場”だからこそできることがあります」
「たとえば、私たちは図書館司書の資格を持っていません。本の並べ方も自由に工夫しているため、料理の本の隣にダイエットの本、その隣にごちそうの本を置くといった、図書館では通常あり得ない配置をしています。本の並び替えもしょっちゅう行いますが、それは利用者の方に新しい本と出会っていただきたいという思いからの仕掛けです。そうした工夫の積み重ねによって、図書館ではなかなか得られない本との出会いが生まれるのではないかと思っています」


失敗しても大丈夫。
子どもは大人の姿に勇気づけられるはず
『つるぼん』では、絵本の読み聞かせにとどまらず、朗読や語りの会も開かれています。さらに、地域の団体とも積極的に連携し、多文化クラブ『DANRO』などと協力して、交流イベントやワークショップを開催。地域の人々とともに場を育てていける柔軟さも、『つるぼん』ならではの大きな特徴といえます。

「本を通じて人と人がつながっていく姿を見ると、本当にうれしく思います。『つるぼん』のコンセプトは“学び” “交流” “出会い” “実験の場” “発見の場”。私自身、本に勇気づけられてきた一方で、多くの失敗もしてきました。けれども、失敗はあきらめたときに初めて失敗になるものだと思っています。改善を重ねれば次につながり、それは成功への一歩です。そのヒントや材料は、必ず本の中に見つかります」
だからこそ『つるぼん』は、失敗を恐れるのではなく、「ここでちょっと試してみませんか」と言える場所でありたいと、金城さんは話します。
「大人が失敗してもいい場所があれば、子どもはきっとすごく勇気づけられるはずです。おせっかいな館長かもしれませんが、そんなめんどくさいことも発信できる場所にしていきたい。そして、そういう場を作りたいというのが、この施設の隠れたテーマのひとつです」

「本を借りなくてもいい場所」
自由な図書コミュニティのかたち
もともと鶴川図書館には約5万冊の蔵書がありました。そのうち特に利用の多かった本を厳選し、約1万3000冊を『つるぼん』に引き継いでいます。さらに新たに団体の特徴を表す本を中心に約650冊を購入しました。現在の貸し出しは一人あたりの3冊まで、期間は2週間です。
「ここはコミュニティの場所なので、本を借りることよりも、足を運んでいただくことを大事にしたいと思い、1回の貸し出し冊数を3冊にしました。でも、もっと借りたいですよね(笑)。このあたりのルール作りは、利用者さんの様子を見ながら試行錯誤しているところです。頻繁には変えられませんが、年末年始には特別貸し出しをしてみるなど、図書館ではできなかった取り組みに挑戦したいと妄想しています」
一方で、このルールが思わぬ喜びを生むこともありました。ひとり3冊までの制限があるため、なかには乳幼児を含めた家族全員分の利用カードを作り、たくさん借りていくご家庭もあります。
「お母さんと一緒にいらした小さなお子さんが、自分の名前入りの利用カードを受けとって、とてもうれしそうにしていた姿が印象に残っています」
こうした小さなエピソードも、『つるぼん』の魅力のひとつです。金城さんは続けます。
「『つるぼん』は誰でもいつでも来ていい場所。本を借りなくても、静かにしていなくてもかまいません。何もしなくてもいていい場所です。赤ちゃんが泣いても外に出る必要はなく、利用者の方々も理解してくださっています。赤ちゃんが泣き出しても、シニアの方が静かに新聞や本を読んでいる。そうした光景を目にするたび、すてきだなと感じます。最初は静かにしなきゃいけない場所だと思っていた方が、お子さんと一緒に自由に過ごし、さまざまなイベントに参加して『ここは楽しい、いろいろな出会いがある』と話してくれたこともありました。『ここがあって良かった』と言っていただけたことが、何よりもうれしかったですね」
そして、『つるぼん』が描く未来のひとつが、夜間開館『よるぼん』です。
「資格試験の勉強をしたい人や、安心できる場所を探している子どもたちにとって、夜の図書施設は大きな意味があります。『つるぼん』が夜も安心できる居場所になればうれしいですね。ここではいろいろな人の本に出会えますし、本が好きな人同士で話やつながりが生まれることもあります。そうした中で多様な大人に出会えることが、まちを育て、子どもを育てることにつながるのではないかと思うんです。本があって、豊かな大人がいる。町田がそういうまちになったらいいなと思っています」

好きなのは薬師池公園周辺。
アーシングが秘密の習慣
本や人とのつながりを大切にしながら、『つるぼん』の活動にもエネルギッシュに取り組む金城さん。その源は、町田の自然にありました。
「私は緑がないと生きていけないんです」
そう語る金城さんは、町田を「都会でありながら田舎でもある」と表現します。
「私が住んでいるところは緑が多くて、『どこに住んでるの?』とよく聞かれます(笑)。住まいは野津田ですが、薬師池公園に住んでいるようなものですね」
町田への愛着は、最初からあったわけではありません。引っ越してきた当初は「特に町田が好きでもなかった」と振り返ります。
「でも活動を重ねる中で、『この人がいるから町が好きなんだな』と思うようになりました。住んでいる人が好きだから、町田が好き。結局は人なんですよね」
『きんじょの本棚』を通じて広がった人のつながり、そして今では一緒に活動を支えてくれるスタッフの存在が、金城さんを勇気づけています。
「地域のために活動する方とつながることが多く、自分より頑張っている人がいると励まされますし、自分にできることで応援したいと思えます」
そんな金城さんには、「誰にも教えていない場所」があります。薬師池公園近くで、アーシングをするための秘密の場所です。
「アーシングってご存じですか?裸足になって大地に立つと、自然からエネルギーをもらえる気がするんです。そこで充電すると、すっと心が静まる。自然の中で過ごすことは、日々の生活の大切なルーティンになっています。薬師池公園のあたりが町田で一番好きで、毎朝必ず散歩に行きます。雨でも台風でも欠かしません」
朝露をカメラに収めるのも習慣のひとつです。
「性格的にいつも何かを考えてしまい頭が休まらないのですが、写真を撮るときだけは『どうやったらこの瞬間をきれいに撮れるかな』と、そのことだけに集中できる。まさに『無』になれる時間です」
「自然に身をゆだねて気持ちをリセットするように、本を読むこともまた欠かせません。どんなに忙しくても1日15分は本を開き、移動がある日には1冊読み切ってしまうことも。同時に4冊ほど並行して読むのがふつうで、月に15冊〜20冊を手に取っています」
読みたい本や読んだ本は、かつてnoteやInstagramに記録していたものの、最近はあまり更新しておらず、「同じ本をもう一度読んでしまうこともあります」と笑います。
「読みたい本を積んでいくことを『積ん読(つんどく)』と言いますよね。本好きの方たちはよく『また積んじゃった』と言うのですが、その本を読もうと思った時点で、すでに本のエネルギーを受け取っていると思うんです。積んでいくだけでも意味があるし、出版業界への貢献にもなる。 だから私は“徳を積む”ことだと思って、どんどん積もうと話します」
自然、本、人、そして地域への思い。そのすべてが金城さんの原動力になっています。そんな金城さんが町田のロゴマーク「いいことふくらむまちだ」に添えたのは、「本でいいことふくらむまちだ」という言葉でした。
Information
町田市中町で現代アートの展示活動を行っている『ART55』とコラボして、『つるぼん』にて下記のイベントが開催されます。大石珠世展
『つるぼん』×『ART55』コラボ企画第一弾
「―つるぼんがアートに包まれる3日間ー
SLICE OF LIFE 〜つづられた記憶〜
期間:2025年10月10日(金)〜10月12日(日)
時間:10:00〜17:00
シルクスクリーンを用いて自然の風景や記憶の断片を表現する大石珠世さんによる個展。自身で製本した「本」の作品をベースに、本の1ページを「スライス」として切り取り、日々の記憶やイメージを重ね合わせた作品群を展示します。会場となる『つるぼん』の空間に自由にインストールされる作品の数々を通じて、本とアートの新しい出会いが生まれます。
『つるぼん』×『ART55』コラボ企画第二弾
中村龍馬展 木版画展
「くーるだうん」
期間:2025年10月25日(土)・26日(日)、11月1日(土)・2日(日)
時間:10:00〜17:00
アーティスト・中村龍馬さんの作品が、つるぼんBOXいっぱいに広がります。展示とあわせてワークショップも開催。作品を間近に感じながら、参加者自身も表現に触れられる特別な機会です。
ようこそ!鶴川OMOTENASHI祭り2025秋
骨董市・古本市・マーケット・お茶会など、地域の拠点を巡りながら、人と人、心と心が出会い、つながっていく。そんな特別なひと時をお楽しみください。「つるぼん」は可喜庵とコラボして、古本市と古民家図書館を開催します。
開催日時:2025年10月19日(日)10時~16時
詳細:
・鶴川香山園…「つなぐ市」の開催。キッチンカーの出店
・武相荘…骨董市の開催 ※品物が無くなり次第終了
・可喜庵…古本市と古民家図書館の開催(鶴川図書コミュニティ施設「つるぼん」とのコラボ)
・みんなの古民家…「柳家小はぜ落語」と「いっぷく座紙芝居」の開催。リメイク木工品やたこ焼き、ドリンクの販売
・茶室虚心亭…お抹茶体験とおもてなし茶会の開催。茶道具やクラフト商品、成城プリンの販売
・鶴川駅前みちのべ公園…インフォメーションの設置。コーヒーや軽食、町田地元野菜の販売
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