町田で息づく、心まで温まる一皿。
三代目が繋ぐ、
老舗カレーの伝統と未来への挑戦
更新日:2025.8.28

「リッチなカレーの店アサノ」の3代目 浅野純平さん
町田の懐深く、仲見世商店街からスタートし、38年もの間変わらぬ味で人々を魅了し続ける一軒のカレー店があります。扉を開ければ、スパイスの香りと共に迎えてくれるのは、実直な笑顔が印象的な「リッチなカレーの店アサノ」三代目の浅野純平さん(26)。市外からも足を運ぶ人が多く、土日には6席(移転前)の店内に1日で100人を超えるお客さんが押し寄せます。

浅野さんは高校卒業後に調理の専門学校へ行き、都内の老舗洋食店で4年間修行したのち、店のカウンターに立つようになりました。お店の命とも言えるルーは、初代であるお祖父様が開発した「欧風・和風・東南アジア風」の3つの個性が絶妙に溶け合ったもので、仕込みには4日間を要するといいます。一口頬張れば、複雑にして奥深いスパイスの味が幾重にも広がり、まさに至福の味わいです。現在、店舗を切り盛りする浅野さんは、幼い頃から継ぐことを考えていたのでしょうか。
「いいえ、全く。料理もお手伝い程度しかしたことがなくて。僕が高校3年生の時、おじいちゃんが亡くなったんです。それでこの味がなくなるのは寂しいな、と。作れるようになりたい、繋いでいきたいという気持ちが芽生えました」

店のカレーが「家のカレー」として育ってきた浅野さん。働き始めの頃は味の再現に苦労したそうです。昔からの常連さんに「今日の味はどうですか?」と聞きながら、お祖父様が築き上げ、お父様が守ってきた味を追いかけていきました。そのような中、伝統の味を土台に、浅野さんは新しい取り組みを始めたそうです。
「トッピングは僕が始めました。例えば、玉子やナスのソテー、にんにくの素揚げなどのメニューがあります。洋食屋さんで修行させてもらったので、平日の夜限定でオムレツのトッピングもやっています。どれとどれを合わせたら美味しくなるだろうと考えるのが好きですね」

店は、カウンター数席のみの、いわば「超オープンキッチン」。この空間で大切にされているのは、お客さんとの温かいコミュニケーションです。それは、「出身どこなの?」などと気さくに声をかける父・信三さんから受け継いだ精神でもあります。お客さん一人ひとりの反応がダイレクトに伝わるといい、「美味しいって顔で食べてくれるのを見ると、やっぱり嬉しいです」と笑顔を見せます。

「常連さんからおじいちゃんが店主をしていた頃の話を聞けたりして面白いですよ。おじいちゃんはカツカレーに力を入れていたので、チキンカレーとかポークカレーとかメニューに載ってるけど『カツカレー食べろ』って一択だったとか(笑)」

手前右写真が定年退職後60歳で調理師免許を取り、店を始めた祖父の吉男さん

サインや写真がいくつも飾られている店内
店内の壁に設られた大きな鏡も斬新です。なぜ鏡があるのでしょうか。
父・信三さん「私が父に提案したんだよ。お店を広く見せるためにね」
「お客さんの忘れ物も反射して見えて便利です」
唯一無二のカレーと、そんな親子の掛け合い、温かい人柄が「また来たい」と多くのリピーターを生んでいるのでしょう。店で繋いできた絆が広がり、最近では銀座のカレーフェスティバルに出店するなど、挑戦の歩みも止めません。

味を受け継ぐ親子の連携
「準備は大変ですけど、普段お店に来られない遠方の方にもうちのカレーを届けられるのは嬉しいし、新しい出会いもありました。前にお店に来てくださっていた方が、『町田遠くて行けなくなっていたけど近くで出店してると聞いたから食べに来ました』と来てくださったり。やってみて良かったなと思います」

町田の「広いようで狭い」
コミュニティが心地いい
生まれも育ちも町田の浅野さん。小学校から熱中してきた野球は、今も市内の草野球チームで続けています。対戦相手にかつてのチームメイトや先輩後輩の顔を見つけることも珍しくなく、そんな町田の「広いようで狭い」コミュニティが心地いいと話します。
「僕お酒が好きなんですけど、飲みに行けば『カレー屋さんなの?』と仲良くなったり、店に来てくれたり、逆にうちの店のお客さんに会ったり」
「そんな横のつながりがあるまちだから、おじいちゃんの頃なんて『ガチの口コミ』だけでお客さんが増えていった。温かい人が多いまちだと思います」


そんな浅野さんが、町田のキャッチフレーズとして選んだ言葉は、“カレーで、いいことふくらむまちだ”です。
「町田って、これから近くにリニアが通ったり、モノレールの話もあったりして、もっともっと大きなまちになるポテンシャルがあると思うんです。人が増えれば、それだけビジネスチャンスも転がっていて、新しいことを始めるには面白いまちですよ。ちょっとずつカレー屋が増えてたりもするので、下北沢とか神田みたいにカレーで盛り上がるまちになったら面白いなと思います」