古着を通じて感じるカルチャー
町田で出会う唯一無二の一着
更新日:2025.05.15
ファッション誌でも紹介されるほど、町田は古着のまちとして知られています。個性豊かなショップが点在し、それぞれが独自の視点でセレクトしたアイテムを展開しています。80〜90年代のレギュラー古着を扱う「worry」、トラッドスタイルを軸にした「ULTRABO」、60年代アイビールックに影響を受けた「TREDICI」、そして古物百貨店を標榜する「All Tomorrow’s Parties」。服を通じてカルチャーを楽しめる4つの店舗を巡り、町田の古着シーンを体感してみませんか。
町田の古着カルチャー最前線
worry




芝生広場「町田シバヒロ」の目の前の路面店「worry(ウォーリー)」は、昨年夏にオープンしたばかり。その新しさから、町田の古着シーンの最前線にいると言えるでしょう。店主の2人は高校時代の先輩後輩で、当時から古着が好きで「いつか店舗を開きたい」と語り合っていました。卒業後はそれぞれ別の古着屋で経験を積み、オンラインショップの運営を開始。そして、「公園前で人通りの多い道路に面した1階」という理想的な物件に巡り合い、迷わず決断しました。
扱うのは80〜90年代の「レギュラー古着」が中心。クラシックなアイテムを好む鷲見青樹さんと、映画やアメコミをルーツとしたカジュアルな古着を嗜好する山下伸一郎さん、それぞれの個性がセレクトに反映されています。「古着の魅力は、単なる服としての価値だけでなく、当時のデザインやカルチャーが詰まっていることですね」と山下さん。例えば、90年代のバンドTシャツはライブで配られた限定品などもあり、その価値は年々上昇しています。また、映画のプロモーションTシャツやスケートブランドの過去のアイテムなど、現代のファッションブランドがデザインソースにしているオリジナルが手に入る点も古着ならではの醍醐味です。
「町田は下北沢や原宿ほど敷居が高くなく、初心者でも気軽に立ち寄れるまち」と鷲見さん。実店舗はシンプルでクールな内装で、エレクトロニカ系の音楽が流れる落ち着いた空間。アイテムは厳選し、ゆったりと服を見てもらえるよう工夫しています。一方で、オンラインショップも並行して展開。「オンラインだからこそ全国の人に届けられるし、実店舗だからこそ直接手に取ってもらえる。その両方の良さを活かしていきたいですね」と語ります。
トラッドスタイルの代名詞
ULTRABO




古着業界では一般的に、25年以上前のものが「ヴィンテージ」と呼ばれます。今年20年目を迎える「ULTRABO(ウルトラボ)」は、町田の古着シーンにおいて「老舗の域」に差し掛かっていると言えます。古着に例えるなら、ヴィンテージに近づきつつある存在です。
服飾専門学校の同級生だった友人同士が、再びつながり、「何か一緒にやろう」と軽い気持ちで始めたお店だそうです。主に店頭に立つ誠さんによると、開業当時、町田の古着屋はアメカジ系がほとんどで、トラッド系の店舗は少なかったとのこと。そこで、テーラードジャケットやロングコート、革靴といったトラッドアイテムを中心に展開しました。もともと2人が好きなジャンルだったこともあり、充実した品揃えが強みとなり、気がつけば町田のトラッド系古着の代名詞となっていたそうです。
ちなみに、誠さんはテクノやハウス、ドラムンベース、ジャングル、ブレイクコアなど、いわゆる「ダンスミュージック」をこよなく愛しているとのこと。店舗の雰囲気や扱うアイテムとは異なるジャンルですが、そこにまた面白さがあるのかもしれません。
「古着の魅力は、品質の良いものを手頃な価格で楽しめることです」と誠さん。特に、60年代以前の服は生地が丈夫で、長く使うことを前提に作られているため、現代の服とは違った魅力があります。店舗ではそうしたヴィンテージアイテムだけでなく、2000年代のアイテムも揃えています。ファッションの流行は移り変わりますが、「自分たちが良いと思うものを提供する」という姿勢は、これからも変わることはないそうです。
ブランドに頼らない選択
TREDICI




入り口に設置された看板
地元ミュージシャンも贔屓にする「おしゃれ」な店、それが「TREDICI(トレディーチ)」だ。2009年10月にオープンし、今年15年目。オーナーの愛称から店名を取り、シンプルでかっこいい古着屋を目指してきました。
「ブランドのネームバリューに頼らず、純粋に服の良さを伝える店でありたい」と町田店のマネージャー、木本祥太さんは話します。60年代のアイビールックに影響を受けつつも、特定のブランドにこだわらず、ディテールの面白さを重視したラインナップ。買い付けの際は先入観を排し、純粋に「新しさ」を感じるアイテムを選ぶことを心がけているそう。「現行の服って、結局過去のデザインをサンプリングして作られることが多いんですが、古着って『なんでこんなデザインにしたんだろう?』って思わせるような服がたくさんあるんです。特に80年代は、良い意味で“ふざけた”デザインが増えていて、現代の服よりも新鮮に感じることがあります」
そんなスタイルに、音楽好きも共鳴している。「常連のDJさんが店舗に合う音楽を選んでくれたんです。私自身、その点はちょっと疎いんですけど(笑)、いい雰囲気を作ってくれるサウンドだと思いますよ」
改めて古着の魅力について木本さんはこう話す。「やっぱり、古着って唯一無二なんですよね。他には誰も持っていないかもしれないものを着るっていう優越感があるし、何十年前に作られた服を今着ることで、その時代の空気を感じられる。それが現行の服では味わえない感動なんです」
過去と未来が交差する場所
All Tomorrow’s Parties(ATP)

2階に陳列している古着



店名は、米国のロックバンド「The Velvet Underground」の名曲から取られています。その歌詞は、貧しい少女が土曜日のパーティーに行くために、祖母の古着で着飾るという内容です。「All Tomorrow’s Parties」──直訳すると「すべての明日のパーティ」となります。「未来を見据えた人たちが新しい生活を始めるためにこの店を訪れる。でも、店にあるのはすべて過去のもの。その対比がこの店の面白さなんです」と話すのは、オーナーの富岡栄二さん。2002年に創業し、2017年、現在の地に移転しました。
富岡さんは20代前半から古物業界に携わってきました。「当時はまだヤフオクやメルカリもなく、人々が『ものの価値』を意識していない時代でした。だからこそ、ゴミのように捨てられる中に、本当に価値のあるものがたくさんありました。リサイクル市場ではそうしたものを拾い上げて販売していましたが、その中で『これは自分の店で売りたいな』と思うものが増えていったんです」と振り返ります。
そして、27歳のときに自分の店を持つことを決意しました。「もともとリサイクル業だけではなく、『物を知る』ことに興味がありました。博物学的な観点から、ものの背景を学ぶのが面白かったんです。映画や音楽、本を通じてカルチャーを吸収してきたので、例えば60年代のファッションならフラワームーブメント、50年代ならロカビリーというように、その時代ごとの背景とリンクさせて考えることが自然でした」
ATPは古着屋ではなく、「古物百貨店」としてアンティーク家具や雑貨、ヴィンテージアイテムなど、個性的な商品を扱っています。その店舗の2階の一角に古着が並んでおり、どれも富岡さんの審美眼で選ばれたものばかりです。内装や商品と「同じにおい」がする古着が並ぶ空間は、統一感があり独特の世界観を作り出しています。
また、富岡さんはDJとしての顔も持っています。選ぶ音楽はジャンルにとらわれず、「質感」を大切にしているそうです。店舗にはレコードも揃っており、アナログの音響を楽しむことができます。時を経たものが持つ独特の質感を大切にしながら、新しい視点で楽しむ──ATPは、そんなカルチャーと出会える特別な空間です。
町田には、時代やジャンルを超えて個性が交差する古着の世界があります。それぞれの店が持つ独自の視点と審美眼は、ただの“服”を“カルチャー”へと昇華させています。唯一無二の一着との出会いが、きっとあなたの感性を刺激してくれるはずです。